第9回:フランスと欧州におけるソフトウェア特許

フランスをはじめヨーロッパでは、ソフトウェアそれ自体に関する発明は特許を受けることができないというのが原則で、知的財産権法にも欧州特許条約にもその旨明記されている。ヨーロッパにおいて明確にソフトウェアが特許対象から除外された理由は、ソースコードやオブジェクトコードにより表現されるコンピューターのプログラムは理論的なものであり産業性の条件を満たさない、コンピュータープログラムの新規性や発明行為の審査は非常に困難であるといった法的問題のほかに、何よりもソフトウェアの開発が世界で遅れを取っているヨーロッパで、外国(特にアメリカ)企業によるソフトウェア特許の登録を認めてしまうと、ヨーロッパ企業がソフトウェア産業で発展するのを阻害してしまうという現実的な懸念があった。

しかしながら、プログラムの基となるアイデア(アルゴリズム)は著作権で保護されないことから、ソフトウェア産業による多くの特許申請がなされ、また日米両特許庁におけるソフトウェア特許の認可の動向を受けて、ヨーロッパでも次第に判例でソフトウェア関連発明に特許を与えるため法律の条文を拡大解釈するための基準が設けられ、特に欧州特許庁では、本質上ソフトウェア自体に関する発明、またはそれに近い発明でも特許が認められるようになってきている。ここでは法律の原則と判例の変遷を見た後でソフトウェア関連特許をフランス、ヨーロッパで登録するにはどうしたらいいか、特許が取り消されないためには何に注意しなければならないかを紹介する。


● ソフトウェア発明-特許or著作権?

1994年のTRIPS協定 (知的所有権の貿易関連の側面に関する協定) では第10条で、「コンピュータープログラム (ソースコードのものであるか、オブジェクトコードのものであるかを問わない) は、1971年のベルヌ条約に定める文学的・芸術的著作物として保護される」と規定しており(TRIPS協定第10条)、特にヨーロッパでは1991年5月14日のコンピュータープログラムに関する指令 (91/250/CE)で、コンピュータープログラムは特許ではなく著作権で保護されるという原則がEU加盟国で国内法化されている。

したがってソフトウェアはそれが独創性のあるものであれば著作権で保護されるが、著作権はプログラムの外部に表現された形(ソースコード、オブジェクトコード、実行ファイル)を保護し、その基となるアイデアや方式、アルゴリズムを保護しない。そのため同じアイデアや方式を用いた別の製品の販売を禁止することができないことから、多くの特許申請がヨーロッパでもソフトウェア産業によりなされてきた。

フランスで特にソフトウェア特許に反対する学説は、著作権による保護と特許による保護が重複すると、職務発明の場合(著作権は原則として社員に帰属するが特許では雇用者に帰属する)や権利侵害の場合の時効(著作権では5年、特許権では3年)や裁判管轄(著作権では侵害地の大審裁判所が管轄するが特許権ではパリの大審裁判所に訴訟を提起しなければならない)などの点で混乱が生じると指摘するが、ソフトウェアの表現形式を著作権で、技術的側面を特許権で保護することには利点も多い。


● フランスとヨーロッパにおけるソフトウェア特許の除外の原則

フランスの特許法を見ると、特許は産業的な応用が可能な発明にのみ与えられ、知的、観念的な発明は特許の対象とはならないという原則はすでに18世紀、フランス革命後の1791年5月25日の法律以降規定されていたが、1968年1月2日に制定された新特許法は、上述のような理由、特にアメリカのソフトウェア産業による市場独占のおそれに対する懸念から、明確にコンピュータープログラムを特許を受けることができる発明から除外する規定を設けた(第7条2項)。

欧州特許庁もこれと同じ方針を採り、欧州特許の付与に関する1972年のミュンヘン条約(EPC)ではその52条で、コンピュータープログラム「それ自体に関係している」発明を、特許を受けることができる発明から明確に除外した:

特許を受けることができる発明
(1) 欧州特許は,産業上利用することができ,新規であり,かつ,進歩性を有するすべての技術分野におけるあらゆる発明に対して付与される。
(2) 次のものは,特に,(1)にいう発明とはみなされない。
(a) 発見,科学の理論及び数学的方法
(b) 美的創造物
(c) 精神的な行為,遊戯又は事業活動の遂行に関する計画,法則又は方法,並びにコンピューター・プログラム
(d) 情報の提示
(3) (2)は,欧州特許出願又は欧州特許が同項に規定する対象又は行為それ自体に関係している範囲内においてのみ,当該対象又は行為の特許性を排除する。

このEPCの規定はフランスでは1978年7月13日の法律で国内法化され、現知的財産権法第L611-10条となっている。


● フランス裁判所と欧州特許庁におけるソフトウェア関連特許認可の動き

フランスをはじめヨーロッパでは70年代からこの非特許条項の対象となるプログラム発明とは何かが問題となった。

フランス裁判所の立場

フランスでは70年代はじめまでは1968年法の規定が厳密に解釈され、コンピュータープログラムが関与する発明はすべて特許を受けることができないという立場が裁判所により取られていたが(破棄院1975年5月28日判決 (Mobil Oil))、EPC が締結された70年代後半から、ソフトウェアによる単なる情報処理に関する発明とソフトウェアの実施のためのハードウェア資源またはソフトウェアの実施により得られるハードウェア資源とを区別し、後者は特許の対象となりうるという立場が打ち出された(破棄院1979年5月22日判決 (Technicon))。

その後80年代に入り、1981年のSchlumberger判決(パリ控訴院1981年6月15日判決)で、ソフトウェアの実施を伴う“方式”も、それが産業的性格を持つものであれば、特許の対象となりうると判示された。本事案は、油田を開発するために地層のサンプルを採取し、分析・処理するプロセスに関する発明で、そのプロセスのいくつかの段階がコンピュータープログラムによって行われることを理由に、フランス特許庁が特許申請を却下し、Schlumberger社が申請拒否の決定に対して控訴したものであるが、パリ控訴院は1981年6月15日の判決で、当該プロセスは地層のサンプルという物体を対象とする以上「その目的、応用、結果において産業的性格を持つものであり、そのプロセスのいくつかの段階をコンピュータープログラムが実行していることは特許付与の妨げとはならない」として、特許申請を有効なものとした。

このSchlumberger判決で打ち出されたソフトウェア関連発明の特許付与基準は1987年にフランス特許庁により正式に採用され、現在でも欧州特許庁の判例と合わせてフランス特許庁の審査基準の一つとなっている。

欧州特許庁の立場

欧州特許庁では、80年代から、発明には“技術的性質"がなければならないとするEPC施行規則27条と29条の規定に準じて、それが物体に応用され「既存の技術に貢献する」(technical contribution / contribution technique)発明であれば、コンピュータープログラムが関与する発明でも特許の対象となりうるという立場が打ち出された(1986年Viacom審決 : 欧州特許庁技術審判部1986年7月15日審決(T208/84):衛星から送られる映像の数学的手法による画像処理)。

この既存の技術に貢献する発明の基準は、その後欧州特許庁により、コンピュータープログラムが関与する発明でも請求項の記述全体に鑑みて、それが物体を対象とする技術的効果(technical effect / effet technique)を持つものと判断される場合には、非特許条項の対象とはならないという基準に変わった(1987年Koch et Sterzel審決 : 欧州特許庁技術審判部1987年5月21日審決(T26/86):プログラムによる情報処理機能がついたX線装置、1993年IBM審決 : 欧州特許庁技術審判部1993年4月13日審決(T110/90):プリンターのコマンド)。

90年代に入ると、技術的効果の基準はより拡大され、欧州特許庁はコンピュータープログラムが関与する発明について必ずしも物体を対象としなくとも技術的効果があれば特許の対象となりうると拡大され (1994年IBM審決 : 欧州特許庁技術審判部1994年4月19日審決(T887/92):オンライン・ヘルプ機能)、さらに90年代後半には、請求項にコンピュータープログラムと明記されている発明でも「単なるプログラムとコンピューターの間の情報処理を超えた技術的効果 (further technical effect / effet technique supplémentaire)があれば」EPC 52条による « コンピュータープログラムそれ自体に関する発明 »にはあたらず、特許を受けることができると判示するようになった(1998年、1999年IBM審決 : 欧州特許庁技術審判部1998年7月1日審決(T1173/97), 1999年2月4日審決(T935/97))。

この傾向は2000年代に入るとさらに、プログラムとコンピューターの間の情報処理を超えた技術的効果がなくとも、単に技術的性質(technical character / caractéristique technique)があれば特許を受けることができる発明であるというまでになり (2004年Hitachi審決 : 欧州特許庁技術審判部2004年4月21日審決(T258/03):ウェブオークションに関するシステム、2006年Microsoft審決 : 欧州特許庁技術審判部2006年2月23日審決(T424/03):クリップボードフォーマットに関するシステム)、現在に至っている。

一方ソフトウェアを用いたビジネスモデルに関する発明については、「プログラミング前のアイデアに技術性があること」を理由に特許性を認める審決がいくつか下されている (1994年Pettterson審決 : 欧州特許庁技術審判部1994年4月19日審決(T1002/92):顧客順列決定システム、1994年Sohei審決 : 欧州特許庁技術審判部1994年5月31日審決(T769/92):ビジネスマネージメントシステム)が、プログラミングに遡って技術的考慮が証明できないビジネスモデル発明は一般に特許を受けることができない発明と見なされる。

このような欧州特許庁によるEPC第52条の拡大解釈は加盟国の間で批判も多く、またこれらの審査基準に矛盾があると考えられたため、2008年10月22日拡大審判部に対して、コンピュータープログラム特許の審査基準について、

1) 請求項にコンピュータープログラムと明記されている場合にはそれだけで非特許条項の対象となるか
2) コンピュータープログラムに関する発明が非特許条項の適用を避けるためには補足的な技術的効果が必要か、その場合にはその補足的な技術的効果は単なるプログラムとコンピューターの間の情報処理を超えたものでなければならないか
3) 技術的効果は物体に対してあることが必要か否か
4) コンピューターのプログラミングには必然的に技術的考慮が関与し、それによって技術的効果があると結論できるか否か、それとも補足的な技術的効果が必要か

などの4つの質問が付託されたが、拡大審判部は2010年5月12日、付託された質問に引用された審決における審査基準の違いは単なる通常の判例の変遷に過ぎず、矛盾は存在しないため拡大審判部への付託条件を満たさないと判示した(欧州特許庁技術審判部G3/08)。

● フランス特許庁と欧州特許庁における現行のソフトウェア関連特許の審査基準

こうした判例の変遷を踏まえて、フランス特許庁と欧州特許庁においてソフトウェア関連発明が特許を受けることができる発明(知財法L611-10条またはEPC52条の非特許条項の対象とならない)と見なされるための現行の審査基準は以下の通りとなる。

  • その発明が技術的分野のものであること
  • その発明が技術的問題を解決すること
  • その発明が技術的機能を用いて技術的なデータを処理すること
  • 請求項に技術的性質(プログラミング前の技術的考慮も含む)が記載されていること

従って実務上フランス特許庁または欧州特許庁でソフトウェア関連発明の特許申請をする際には、まず発明が解決する技術的問題を見つけ、請求項でそれを定義説明すること、またはプログラミング時にさかのぼった技術的考慮を説明することが必要となる。

例えば音声処理の方法またはシステムに関する発明、3Dレントゲンの方法または装置に関する発明、暗号系の方法または装置に関する発明、画像圧縮の方法またはシステムに関する発明はフランス特許庁、欧州特許庁において特許を受けることができる発明と認められるが、会計処理プログラム、オンライン証券取引の情報処理に関するプログラム、金融取引に関するプログラムや言葉や表現の自動判別プログラムなどは、フランス特許庁、欧州特許庁においては技術的性格がないものとして非特許条項の対象となる。


90年代後半以降、日米特許庁によるソフトウェア特許認可の動向を受けて、欧州特許庁(EPO)は、ソフトウェア特許を禁止する欧州特許条約の条項の拡大解釈により一定の技術的基準を満たすソフトウェアに特許を与える立場を取ってきたが、欧州特許条約の加盟国からは、欧州特許庁の審決に一貫性がないなどと批判が多く、ソフトウェアを非特許要件から外すEU指令の提案も2005年に欧州議会で否決され、EU内ではソフトウェア特許を広く認めることには消極的な意見が強かった。そのような中、去年12月に採択され、近年実施される見込みの欧州統一特許制度はソフトウェア特許についての欧州特許庁の立場をEU加盟国で適用させるするものであり、新たな議論の的となってきている。

 

(日経BP知財Awaness (日経BP社) - "フランス知財戦略" 2013年3月号掲載記事)