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フランス契約法の判例 

美術品の贋作競売において錯誤による無効取消請求が認められる条件

(破棄院民事第一部2011年10月20日、上告番号n° 10-25980, Pinault c/ Derouineau)

オークションハウスにおけるブール象嵌テーブル売買についてプランタン-Redouteグループのオーナー、François Pinaultが2003年に提起した取消訴訟の2010年9月のパリ控訴院判決が確定した。

ギャラリーとオークションハウスの多いパリでは、美術品のオークションによる売買が盛んに行われている。一方で買った美術品が贋物であったことを理由に、または著名な芸術家の弟子による作品と信じて売った美術品が芸術家本人の作品であったことを理由に、売買の取消を求める訴訟が19世紀から度々提起されてきた。

贋物美術品の売買取消訴訟でキーとなるのが「真物性」(authenticité)の概念である。オークションでの美術品の売買に際して、それが真物であるか否かは、オークショナーがその美術品の価値を決定し、買主がその値段で購入を決める上で一番重要な要素である。

この「真物性」の概念には一般的な法的定義がないが、一部の条文で触れられており、実務と判例で具体化されている。「真物性」の概念に触れているのは美術品及び蒐集品の詐欺的取引に関する1981年3月3日の政令である〔条文を読む〕。同政令には、例えば「美術品の名前のすぐ後に歴史的時代、世紀、時期のレファレンスのみがすぐ続いて記載されている場合には、買主に対してその作品が実際にその時代に製作されたものであることを保障するものとする」(第2条)、「作品が真物であるかについてはっきりとした保留が付されている場合を除き、美術品に芸術家の署名や花押が記されている場合には、その芸術家が実際にその作者であることを保障するものとする」(第3条)、「芸術家の名前に続いて“…の作品とされている”(attribué à…)の表現がある場合には、その美術品はその芸術家の時代に製作され、その芸術家の作品である可能性が高いことを保障するものとする」(第4条)、「芸術家の名前に続いて“…派の作品である”(atelier de…)の表現がある場合には、その美術品はその芸術家のアトリエで、その芸術家の指示のもとに作成されたものであることを」保障するものとする」(第5条)などの規定が含まれている。

一般に、美術品の鑑定と価値の見積を行うオークショナーは、美術品の所有者に対してその美術品が真物である証明書を発行する義務はない。一方、鑑定人やオークショナーが証明書を発行した場合、又はオークションのカタログで美術品が真物であると記載した場合には、当該美術品が贋物であると判明した場合、買主に対し民事責任(損害賠償責任)を負う。

贋物を真物であると間違えて購入した場合、売買の取消は錯誤による合意の瑕疵に関するフランス民法1110条を根拠として行う。同条は以下のように規定している:「錯誤は、それがその対象となるものの本質に関するものである場合にのみ、契約の無効原因となる。」本質に関する錯誤とは、単にその物を構成している質に関する錯誤のみならず、一般的にその物の本質的要素、すなわち、契約当事者の一方が契約を締結するにあたって決定的要素であり、それがなければ契約を締結しなかったであろうと考えられるもの(日本でいう“要素の錯誤”)を指す。従って売主が本質的要素に関する錯誤を理由に売買契約を取り消すためには、売主はその錯誤が売買の対象となった物の本質的性質に関する錯誤であったことと、その本質的性質が契約を結ぶ上で決定的であったことを証明する必要がある。

美術品の売買において、その真贋性に疑問がある場合には、当事者は契約条件に真贋性についての疑問を加えることが可能である。例えば上記1981年の政令第5条に従って、ある美術品が“…派の作品である”としてカタログに記載されている場合、それをオークションで買った買主はその美術品が芸術家本人の作品でないことを理由に売買の取消を求めることはできない。

では、1981年の政令第2条の規定、「美術品の名前のすぐ後に歴史的時代、世紀、時期のレファレンスのみがすぐ続いて記載されている場合には、買主に対してその作品が実際にその時代に製作されたものであることを保障するものとする」に関して、ある骨董品の家具がある時代のものであると記載されている場合に、その家具が実はその時代以降に修復され、部品の一部が後期のものに変えられたものである場合、家具は変質し真物性を失ったといえるであろうか。またカタログに「修復を受けた」としか記載されていない骨董品の家具が、実際にはカタログに記載されている時代以降修復を重ねて当時のものとは違う性質を備えている場合、買主は本質的性質に関する錯誤を理由に売買を取り消すことができるであろうか。

ブール象嵌テーブル事件では家具の修復と錯誤による売買契約の取消の基準が明らかにされた。

Pinault夫妻は2001年12月14日、パリのDrouotにおけるオークションで、60000-80000フランで見積もられていたはめ込み象嵌のテーブルを、その100倍の値段、1 204,347,20 ユーロ (7 900 000 フラン)で落札したが、このテーブルには以下のような解説がカタログに記されていた:「ブール象嵌細工、黒檀柄、脇に2つ引き出しがあり、紡錘型の足がついている。多くのブロンズの彫刻による装飾、金の輝く装飾、バラ型の装飾、花と葉の浮き彫り、葉の形の脚がね。C. J. Dufour と J.M.E.の花押、ルイ16世時代のもの(傷と修復あり)。」

当テーブルを落札後、装飾家具師によりテーブルを分解させて細部の鑑定をさせたPinault夫妻は、このテーブルの4つの足が19世紀に作り直されたものであること、引き出しの底と側面のめっきが19世紀に修復されたものであること、さらにブロンズのいくつかが19世紀のものであることを発見し、本質的性質の錯誤または製品の瑕疵による売買の取消を求め、売主である国立造形美術センター(Fondation Nationale des Arts Graphiques et Plastiques)、オークションハウスDaguerre、オークショナーRenaud氏と鑑定人Derouineauの民事責任を追及する訴訟をパリ大審裁判所に提起した。

2005年10月13日の判決でパリ大審裁判所は、買主Pinault夫妻の請求を退ける判決を下し、この判決は2007年6月12日のパリ控訴院の判決で確定された。事実審裁判所は、当家具が19世紀に修復されたとしても、それは家具の痛みやすい部分を修復するためのもので、再構成されたわけではない。従って家具は全体としてルイ16世紀のものであり、それが真物であることには変わりがなく、従って同家具がルイ16世紀のもので、Dufourの署名があり、“傷”と“修復”があるというカタログの記載は真実に即しており、家具の本質的性質に関する錯誤の理由とはなりえない、と判断した。

しかし、2008年10月30日、破棄院は2007年6月12日のパリ控訴院の判決を1981年3月3日の政令第2条と民法1110条の違反の理由で破棄する判決を下し、事件を別の裁判官から構成されるパリ控訴院に破棄差戻した。破棄院には、1981年3月3日の政令第2条は美術品の名前のすぐ後に歴史的時代、世紀、時期のレファレンスが記載されている場合には、買主に対してその作品が実際にその時代に製作されたものであることを保障し、美術品の一部ないしは複数の部分が別の時代のものである場合には、買主はそのことについて知らされていなければならないとしているところ、本件ではテーブルは19世紀に単に修復されただけではなく、同時代に製造された部品を使って“変質”されており、カタログの不十分は記載は真実に即しておらず、買主に同家具が単に修復され傷がついているだけで、ルイ16世紀以降変質を受けていないという錯誤を引き起こした、と判断した。

差戻しを受けたパリ控訴院はしかしながら破棄院の判決に対抗する判決を2010年9月21日に下し、Pinault夫妻による売買の取消請求を依然却下した。

パリ控訴院はまず、1981年3月3日の政令第2条について、同条の規定は「美術品の名前のすぐ後に歴史的時代、世紀、時期のレファレンスのみがすぐ続いて記載されている場合には、買主に対してその作品が実際にその時代に製作されたものであることを保障するものとする」と規定しているところ、本件ではルイ16世時代という記載の後に傷と修復があることに関する記載が加えられており(また鑑定人とオークショナーは家具を分解できないためこれ以上修復について詳述することは不可能)、美術品の名前と記載されている時代のレファレンス自体は正確であるとしたうえで、民法1110条の規定に関し、「買主が、本テーブルを買う上で決定的要素となったのは、テーブルの全部分がルイ16世時代のものであるということではなく、テーブルの作者がAndré-Charles Boulle と Charles Joseph Dufourという著名な芸術家であり、テーブルがSalomone de Rothchildのコレクションであったという事実である。従ってその本質的性質に関する錯誤を理由に売買契約の取消を求めることはできない」と判断し、買主に2001年のオークションでの落札日以降の法定利息を加算した落札額を売主に支払うよう命じた。

上告を受けた破棄院は2011年10月20日の判決で、売買当時の美術品の状態に関する事実審による判断は十分であり、それ以上の1981年3月3日の政令に関する法律問題の審査は必要ないとして、上告を棄却し控訴審の判決を確定させた。このように、1981年3月3日の政令第2条から、美術品の名前のすぐ後に製作時期のレファレンスが記載されていても、何らかの形で留保が付されている場合にはその美術品の全体がその時期に製作されたことについての真実性を保証しない。オークションのカタログを見る際にはカタログの記載を十分検討し、見積価格に照らして購入しようとする美術品が真贋かを見極めることが必要である。