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フランスの営業権(営業資産)とは~パリで店を開く

フランスでの開業

フランスでブティックを展開したい、レストランを開く、カフェ を始めたい、という場合には、すでにあるブティックや飲食店などの店舗を設備ごと買い取る場合(=営業資産Fonds de commerceの購入)店舗となる物件を借りる権利を既存の借主から買い取る場合(=賃借権Droit au bailの購入)、そして物件の貸貸借契約を物件の貸主(大家)と直接結ぶ場合(新しい賃貸借契約=Bail neufの締結)の3つの方法がある。

 

  

 

« Fonds de commerce » / « Droit au bail » / « Bail neuf » ….

 

 

 

 

 

 

 

I. 営業資産(Fonds de commerce)や賃借権(Droit au bai)を購入することのメリット

営業資産(Fonds de commerce)や賃借権(Droit au bai)を購入することの一番のメリットは、物件に入居してから店舗を続ける間払わなければならない家賃の額が低くなることである。

営業資産や賃借権を購入せずに物件の貸貸借契約を借主(大家)と直接結ぶ場合には初めの投資が少なくて済むが、店舗の家賃はその物件の市場の相場に応じて貸主により自由に設定されるため、高くなる。貸貸借契約の条件は貸主と借主の弁護士間で交渉され、契約書が作成されるが、貸主は貸主にとって最も有利な条件を定める契約書の条項を入れたドラフトを提示するので管理費等の支払いや家賃の値上げ率、修理工事費の負担等の点で借主に不利な条件が設定されることは少なくない。

店舗を開く段階で営業資産、または賃借権を購入することにより、不動産市場の相場よりずっと低い家賃で物件を借りることができ、また入居してから借主が負担しなければならない費用の額について予測することが可能となる。

営業資産(Fonds de commerce)の購入と賃借権(Droit au bai)の購入の違いは、店舗の設備ごと買い取るか、店舗の借主となる権利だけ買い取るかの違い。基本的に、開業したい物件が経営しようとする事業と同じ場合には営業資産の購入が、開業したい物件が経営しようとする事業と違う場合には賃借権のみの購入が行われる。後者の場合には賃貸借契約で経営しようとする事業が認められていることが必要で、認められていない場合には事業変更の手続(déspécialisation)を賃借権購入に先立って進めなければならない。

以下営業資産の購入について説明する。

 

II. 営業資産(Fonds de commerce)の購入=既にある「店舗」(ブティック、レストラン、エステサロン…)を買う場合

日本で一般に「営業権」と訳されているフランスのFonds de commerceとは、ある場所で事業を営む権利のことではなく、会社や事業主が事業を営む上で必要な資産 / 設備 / 要素全般を意味する。

営業資産(Fonds de commerce)に何が含まれるか

フランス法のFonds de commerceの概念では「有体資産」(éléments corporels)と「無体資産」(éléments incorporels)が区別され、後者が特に重要とされる。

営業資産の無体資産(=非物質的要素:触ることができないもの)に含まれるのは主に以下の要素である:

  • 顧客-もとの店舗に来ていた「お客」(ex. 美容院やレストランの固定客)
  • 店舗の名前-店舗の呼称
  • 賃借権-店舗を借りる権利、既存の商事賃貸借契約を引き継ぐ権利
  • 営業ライセンスー一定の事業を営むために取得が義務付けられている許可(ex. 飲食店のライセンス)
  • 知的財産権―商標、特許等

営業資産の有体資産(=物質的要素:触ることができるもの)に含まれるのは主に以下の要素である:

  • 店舗にある家具
  • 店舗の設備
  • ショーウインドー、作業用具、内部装飾等 (不動産物件に固定されているものを除く)

営業資産を購入する際には、事業を営むのに必要な資産として、これらの要素が売主から買主に譲渡される。

営業資産(Fonds de commerce)に含まれないもの

逆に営業資産を購入する際、特別の取り決めを結ばない限り売主から買主に譲渡されないものは以下の要素である:

  • 店舗の物件自体-営業資産はあくまでも動産資産。不動産資産は含まれない。
  • ストック(製品在庫)-売主の商品在庫は営業資産に含まれず、これらの在庫を買い取るためには、別途価格を検討・交渉し、契約書に特別の条項を設ける必要がある。
  • 売主が取引先と結んでいた契約、設備のメンテナンス契約や電話・電気会社との契約など-こうした契約を引き継ぐためには別途条件を検討・交渉し、契約書に特別の条項を設ける必要がある。
  • 売主の債権債務 (ex. 未納の売掛金、未払い請求書)。営業資産はあくまでも事業を営むための資産なので売主の債権債務は含まれない。売主の債権債務を引き継ぐためには営業資産ではなく会社事業の譲渡のオペレーションが必要となる。


店舗の社員(スタッフ)の雇用と譲渡前解雇のリスク

雇用契約は営業資産の要素には含まれないが、フランス法では、労働法で定められた規則として、営業資産を買い取る際には買主は売主の店舗で雇われている従業員の雇用契約を全て、既存の労働条件(ポスト、給与額、勤務年数)のままで引き継ぐ義務がある(労働法L. 1224-1条)。この引き継ぐ雇用契約には正規の雇用契約だけではなく、パートの雇用契約や、育児休暇で休んでいる従業員の雇用契約等全ての雇用契約が含まれる。この労働法L. 1224-1条の規定は「強行法規」であり、営業資産の譲渡の当事者は契約で同条の適用を排除することはできない。

従って、買主は雇用契約の一部、または全部の引継ぎを望まない場合には、営業資産の買い取りに先立って別途売主と特定または全ての社員の雇用契約の解除(合意による退職、解雇等)について交渉しなければならない。譲渡後に解雇することを前提に社員の雇用契約の解除費用を含めて営業資産価格を交渉する場合には、会計士による費用算定が必要となる。

一方買主の要請に応じて売主が譲渡前に社員を解雇する場合、店舗の譲渡のみを理由として解雇の理由とすることはできない。社員の解雇は個人的事由に基づく解雇、経済的事由に基づく解雇、いずれかの解雇で、それぞれ法律で定められた要件を証明することが必要である。解雇の理由が法律で定められた要件を満たさない場合には、解雇された元社員は店舗を買い取った買主を相手取り、解雇の無効請求訴訟を提起することができる。解雇の無効が裁判所により宣告されると、買主は売主の元社員を再雇用し、解雇から再雇用までの給与に相当する額を各社員に損害賠償金として支払わなくてはならなくなる(この場合、買主は売主に対して損害賠償請求訴訟を提起することが可能である)。

実務上は買主の要請に応じて売主の弁護士が社員の解雇と共に示談の手続を行い、営業資産後の訴訟リスクを回避することが行われる。

 

 

営業資産を買い取る手続

フランスで営業資産を購入するためには、営業資産の譲渡契約を締結する必要がある。

開業したい店舗物件を見つけてから営業資産譲渡契約が結ばれる前にまず必要なのが、売りに出されている営業資産の価格査定である。

1. 営業資産の価格の妥当性確認・調査

不動産屋で売りに出されている営業資産には、本来価値の低い営業資産が高く見積もられている場合が多い。質のいい営業資産を妥当な価格で購入するためには、営業資産の価格を出すもととなっている要素を知ることが必要だ。

営業資産の価格は、店舗のある物件の立地条件(ex. 人通りの多い通りに面しているか、否か)、売主の売上高額(通常過去3年間の税抜の売上高をベースに計算される)、賃借権の価値(ex. 家賃の額、管理費や修理工事費の負担、賃貸借契約の期間、更新の可能性)店舗の設備や家具の状態、常連客の数、店舗の評判、ブランド価値の高さなどに鑑みて設定される。一般的に、知られた住所や人気のあるエリアでも、店舗が面している通りの具合で顧客数は大きく異なる。エリアの知名度に惹かれて、事業の発展に適していない営業資産を高い価格で買い取ることがないように注意することが必要である。

売主との価格の交渉においては、公正な価格をベースに交渉が行われるよう、資格のある不動産鑑定士による営業資産価値の鑑定を行うのが望ましい。不動産鑑定士による鑑定には数千ユーロの費用がかかるが、フランスの都市各区域の商業物件の価値を把握している鑑定人による鑑定を経ることで、何万ユーロの営業資産購入価格を節減することができる場合があるので、土地勘がない外国人起業家にとっては必須の手続である。

2. 営業資産の譲渡契約作成

売主と買主との間で営業資産の買い取り価格に合意が交わされた後は、譲渡契約書を作成する必要がある。

営業資産の譲渡契約は法律で規定しなければならない条項が定められており、通常売主と買主の弁護士間で譲渡契約書の作成に必要な書類が交わされ、契約条件の交渉と契約条項の作成が行われる。

買主の弁護士は特に売主の会計士が作成する決算書に異常がないか、決算書に記載されている売上高が真正なものかを確認する必要がある。

営業資産の譲渡では、通常本契約の締結に先立って仮契約(compromis/promesse)の締結がなされる。仮契約は譲渡前に当事者が済ませなければならない手続(ex.買主の銀行融資などの資金調達、物件の用途変更手続、引継ぎの必要のない契約の解除手続、営業資産にかかった売主の債権者の質権取り消し手続など)を、成立の期間が定められた停止条件(condition suspensive、条件が成立するまで契約締結が停止される)として作成される。仮契約には通常、譲渡価格の10パーセントに相当する額が、本契約が当事者の一方の理由により交わされない場合の違約金として定められる(clause pénale)。

 

停止条件として定められた手続が全て期限内に終了後、本契約が署名される。本契約署名時に買主は売主に譲渡代金を支払い、物件の引き渡し手続きが行われる。

営業資産の譲渡は売主の債権者の権利を保護するために、必ず法定公示誌に公示されなければならない。

営業資産譲渡代金の寄託

フランスでは、売主に支払われる営業資産の譲渡代金は売主の銀行口座に直接振り込まれず、売主の弁護士や公証人の寄託口座に譲渡代金全額が寄託(séquestre)されることが法律で義務づけられており、寄託の方法や寄託を受ける者の名前が譲渡契約書に必ず記載され、法定公示誌に公示される。

このフランス法の規定は、売主が店舗を売ってから債務者への支払いをせずに逃げてしまい、買主が売主の債権者から連帯責任を追及されることを防ぐための規定であるが、譲渡代金が寄託されている期間、売主の債権者は寄託者に対して寄託期間中、異議申し立て手続(opposition)を行い、寄託されている譲渡代金から売主の未払い債務の支払いを請求することができることになっている。

 

III. 営業資産を購入する資金がない場合-営業資産のリース契約 (Location-gérance du fonds de commerce )

フランスで事業を営みたいが、営業資産を購入する資産がない場合には、営業資産を購入する代わりに「賃貸」することが可能である。この制度はフランス語で « Location-gérance du fonds de commerce »と呼ばれている。例えば若い美容師やレストランのシェフが、美容院やレストランの営業資産を初めから買い取らずに事業を始めるための制度であるが、購入しようとする店舗の採算性を営業資産の購入前に図るためにもよく利用される制度である。

営業資産の所有者(店舗の経営者)が第三者に営業資産をリースするためには、営業資産のリースが物件の家主との間で交わされている賃貸借契約で認められていなければならない。

営業資産リース契約は通常、自動更新が定められた1年の期間で締結される。契約期間中借主は店舗を正しく経営し、店舗の売上高の一定の率を営業資産の所有者にロイヤリティとして支払う義務を負う。

営業資産のリース契約のメリットは、事業家にとって初めの投資を必要とせずに、すぐに事業を始めることができることであるが、営業資産はあくまでも営業資産の貸主のものであるので、いくらその借主として店舗を正しく経営し、顧客を増やして営業資産の価値を高めたとしても、その所有者となることができない。

また商事賃貸借契約の借主となる場合と違い、営業資産リース契約の借主となる場合には契約更新権(=>商事賃貸借契約の契約更新権)がない。営業資産の所有者は契約書で定められた条件でいつでも営業資産リース契約を終了させて借主を退去させることができ、契約終了時に借主は補償金やその他の手当の支払いを受けることができないというデメリットがある。

従って安定した事業を営み、店舗の経営を自らの事業として将来的に発展させていくためには、営業資産リース契約で店舗の採算性がよく事業の計画に適っていると判断した時点で、営業資産購入の交渉を営業資産の所有者と進めていくことが必要である。営業資産は借主が店舗の経営を正しく行えば行うほど価値が高まる、従って営業資産の価格も高くなってしまうため、購入の交渉はできるだけ早く始めるのが望ましい。