フランス知的財産権法の判例 

グーグルアドワーズの民事責任:ホスティングプロバイダー責任制限条項の適用

(パリ控訴院, 第5部第1院, 2014年4月9日判決, Google c/ Voyageurs du monde, Terres d’Aventures)

インターネットのホスディングサービスを提供するプロバイダーは、欧州指令2000/31/CEの第14条、第15条の適用により、そのサービス上に違法なコンテンツが掲載されている場合、その違法行為について通知を受けてからすぐそのコンテンツを削除またはアクセス不可能にする対応を行えば、その違法なコンテンツにより損害を受けた者に対して損害賠償責任を負わないとされている。

フランスではこのEUのホスディングプロバイダーの責任制限法制は2004年6月21日の電子商取引法(通称LCEN法)、第6条1項の2で国内法化されており、同法第6条1項の5ではホスディングサービスを提供するプロバイダーに対して違法行為について通知する手続が規定されている。

フランス破棄院が2008年5月、Google c/ Louis Vuitton Malletier, Google c/ CNRRH et Google c/ Viaticum SA et Luteciel SARL事件(=>「GOOGLEアドワーズによる商標権侵害訴訟」参照)について、Google社のような検索サイトに欧州指令2000/31の規定が適用されるか否かについて先行判決を申請した案件で、欧州司法裁判所が2010年3月23日の判決で打ち出した原則は以下の通りである (C-236/08, C-237/08, C-238/08, 第121項):

1. 検索サイトには、それが収集した情報の内容を知る、またはコントロールするといった積極的な役割を果たしている場合を除き、欧州指令2000/31の規定が適用される。

2. 検索サイトがこうした積極的な役割を果たしていない場合において、検索サイトが広告主の依頼で保存する情報、または広告主の事業が違法なものであったことを知っていたにもかかわらず、その情報を削除またはアクセス不可能にする対応を行わない場合には、民事責任を負う。

この欧州司法裁判所の判例以降、破棄院と下級裁判所はGoogle社がGoogleアドワーズによる広告表示が商標権侵害、不当競業、虚偽広告、不法行為に当たるとして訴えられる場合に、一貫してGoogle社にホスディングプロバイダーの責任制限法制を適用する立場を取っている。例えば2013年1月29日の判決で破棄院商事部はGoogle社にはLCEN法第6条1項の2が適用されるのでアドワーズによる広告表示について不当競業、虚偽広告を理由とする損害賠償責任は負わないと判示し(上告番号n°11-21011, 11-24713, sté Cobrason c/ Google)、またパリ控訴院は俳優Olivier Martinez が雑誌Galaに対し提起した訴訟に関する2013年12月11日の判決で、Google社は事前に広告主が提供するコンテンツをコントロールする義務を負わず、また同社は原告から違法コンテンツについて通知を受けてからすぐそれを削除したのであるから、ホスディングプロバイダーとしての法律上の責任を果たしているとして、民法1382条の不法行為責任による損害賠償請求を却下した。

本件は、こうした2010年3月以降のフランス裁判所のGoogleアドワーズに関する判例を受けて、Googleアドワーズの広告で被害を受けた原告がGoogle社に対し、従来の判例で損害賠償請求の根拠とされてきた商標権侵害、不当競業、虚偽広告、不法行為に代わる新しい根拠が裁判所に提示されたものである。

大手旅行代理店、Voyageurs du Monde社とその子会社Terres d’Aventure社は、登録商標« Voyageurs du Monde »、 « Terres d’Aventure »、« Terdav »の権利者であるが、« Voyageurs du Monde »商標をGoogleの検索エンジンにかけるとページの右側に競争相手企業のサイトの広告が表れ、またGoogleアドワーズ上で商標« terre d’aventure » 、 « terdav »が広告のキーワード候補として表示されていたことを理由に、Google France社、 Google Inc社、Google Ireland社を訴えた。第一審ではVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社は請求の根拠として商標権侵害、不当競業、虚偽広告、不法行為を挙げていたが、パリ大審裁判所は2009年1月7日の判決で、まずGoogle社によるVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社の商標権侵害はないとした上で、Google社が、広告主がキーワードとして原告の商標、商号を使用する際に権利者である原告の許可を得ているか確認しなかったことは過失を構成し、不法行為と虚偽広告が成立するとして、Google社に対し、問題の広告の停止とVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社への合計350000ユーロと60000ユーロの訴訟費用の支払を命じた。

敗訴したGoogle社は2010年3月23日の欧州司法裁判所判決以降の判例を根拠に控訴したが、これに対してVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社は、Google社の本社はEU圏外に所在するのであるから欧州指令2000/31の規定、またそれを国内法化したLCEN法第6条1項の2の規定は適用されないと主張し、同時にLCEN法第6条1項の2による責任制限条項が適用された場合に備えて、民法1384条の占有者責任を新たなGoogle社の損害賠償責任の根拠として挙げ、Google社は広告主により選択されたキーワードの占有者なのであるから、そのキーワードが第三者に与えた損害について責任を負うと主張し、さらにGoogle社はVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社から違法なキーワードの使用について通知を受けてからもなお広告の表示を続けていると主張して、原判決の維持を試みた。

これに対してパリ控訴院は2014年4月9日の判決で、Google社はフランスで事業を行うのであるからLCEN法の規定が適用されるとしてGoogle社はVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社から違法なキーワードの使用について通知を受けてからすぐ問題の広告を削除したのであるから、ホスディングプロバイダーとしての法律上の責任を果たしており、不法行為と虚偽広告を構成する過失は成立しない、Google社が違法なキーワードの使用について通知を受けた後にスポンサーリンクに表示されていたと主張されている広告はVoyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社の商標、商号をキーワードとした検索結果ではなく、Google上でキーワード候補を拡大し、 « voyage » « séjour »のような一般的なキーワードを検索エンジンにかけた結果なのであるから、それ自体違法なコンテンツとはいえない、また民法1384条の占有者責任を根拠とする請求については、同条の占有者とは有体物の占有者であり、電子メールのような無体物の占有者には適用されないとして、損害賠償請求を認めた原判決を破棄し、Voyageurs du Monde社とTerres d’Aventure社に対し、Google社への50000ユーロの訴訟費用の支払を命じた。

本判決により、Google社のGoogleアドワーズに関する民事責任を追及する法的根拠はさらに制限されることとなった。