ヴァンクリーフ&アーペル v. ルイ・ヴィトン – フリーライドの成立要件

商法上「フリーライド」(ただ乗り)とは、知名度の高い企業のブランドや技術を模倣する行為を差すが、フランスでは同じ業界の競争企業によるフリーライド=不正競争は « concurrence parasitaire »(直訳すると「寄生競争」、寄生虫を指すparasiteに語源)、別の業界の企業によるフリーライドは « agissements parasitaires »(「寄生行為」)と呼ばれている。

商法のフリーライドには民法の不法責任の条項(フランス民法1240条、1241条)が適用されるため、裁判でフリーライドを理由に競争企業や別業界企業のただ乗り行為を禁止させ、受けた損害の賠償を得るためには、被害を受けた企業は相手方企業の過失と自企業が受けた損害、そして過失と損害の間の因果関係を証明する必要がある。

ルイ・ヴィトン社のジュエリーコレクションがヴァンクリーフ&アーペル社の有名なジュエリーコレクションのフリーライドではないと判示されたヴァンクリーフ&アーペル v. ルイ・ヴィトン事件では、フリーライドが成立する要件が破棄院により新たに確認された。

ルイ・ヴィトン社が2015年から販売している、モノグラム・フラワーをモチーフとしたジュエリーコレクション、「カラーブラッサム」が、ヴァンクリーフ&アーペル社(現在カルチエ社とスイス系のリシュモングループ傘下)が1968年から販売している、金のパールまたは平らな縁に囲まれた四つ葉のクローバーをモチーフにしたジュエリーコレクション、「アルハンブラ」のフリーライド(ただ乗り)にあたるかが問題になった事件で、2025年3月5日、フランスの最高裁にあたる破棄院が判決を下した。

事件の流れ

1968年 ヴァンクリーフ&アーペル社がジュエリーコレクション、「アルハンブラ」の販売開始

2006年 ルイ・ヴィトン社がジュエリーコレクション、「モノグラム」「ブラッサム」の販売開始

2015年 ルイ・ヴィトン社が四つ葉のクローバーをモチーフにしたジュエリーコレクション、「カラーブラッサム」の販売開始

2016年-2017年 カルチエ社、リシュモングループがルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」はヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」のフリーライド(ただ乗り)だと主張して、販売停止を請求、パリ商事裁判所に提訴

2021年10月4日 パリ商事裁判所はルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」とヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」との間に強い近似性があるとして、ルイ・ヴィトン社に対し、カルチエ社に34 400ユーロ、リシュモングループに180 000ユーロの損害賠償の支払い、及び「カラーブラッサム」コレクションの販売停止を命じた。

2021年11月10日 ルイ・ヴィトン社がパリ商事裁判所判決に対する控訴の宣言

2023年6月23日 パリ控訴院はパリ商事裁判所の2021年10月4日判決を取り消し、カルチエ社、リシュモングループに対し、ルイ・ヴィトン社の訴訟費用として25000ユーロの支払いを命じた。

判決理由:ルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションで用いられている花のモチーフは、真ん中に芯があり、円で囲まれている。一方ヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」の四つ葉のクローバーは円で囲まれていない。

ルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションの花のモチーフはヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」の四つ葉のクローバーと似たサイズであるが、形は同一ではなく、またルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションの花が片面だけで金のパールで囲まれていない一方、ヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」の四つ葉のクローバーは平らかつ両面でパールで囲まれているという点も、二つのモデルの近似性が強くないことを表している。

ルイ・ヴィトン社が主張するように、四つ葉模様はジュエリーの分野で多く用いられているモチーフであり、色のついたセミプレシャスストーンを金に嵌めるデザインの方式はショパールなど複数の宝飾品ブランドで用いられている。

従って、ルイ・ヴィトン社がモノグラム・ラインの一部である四つ葉模様をセミプレシャスストーンにして円形の金に嵌めたデザインのジュエリーコレクションを販売することは、ヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」のただ乗り行為にはあたらない。

またルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションの販売価格も常にヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」より少し安いわけでなく、パリ商事裁判所の判決はこの点でも間違っている。

カルチエ社、リシュモングループはルイ・ヴィトン社が「アルハンブラ」のただ乗り行為を行ったことを証明していない。

カルチエ社、リシュモングループは破棄院に上告を行い、フリーライド(ただ乗り)の構成要件はルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションが「アルハンブラ」と同じ四つ葉のモチーフであることだけでなく、「カラーブラッサム」コレクションで使われているセミプレシャスストーンが「アルハンブラ」で使われているセミプレシャスストーンと同じ質、色であることや、「カラーブラッサム」コレクションのブラスレット、ネックレスで使われているモチーフが「アルハンブラ」のブラスレット、ネックレスで使われているモチーフと同じ大きさであること、価格設定が「アルハンブラ」の価格設定を考慮していること、及び「カラーブラッサム」コレクションの広告が、通常のルイ・ヴィトン社の広告と違い、ヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」の広告に似たものであるといった全ての点を考慮して判断されるものであると主張した。

2025年3月5日の判決で破棄院商事部は、フリーライド(ただ乗り)の構成要件は全ての点を考慮して判断される(単にモデルの外観に相似性があり一般の消費者が2つのモデルを混同するリスクがあることに限られない)ものであるとした上で、本件ではルイ・ヴィトン社の「カラーブラッサム」コレクションで使われている花のモチーフはルイ・ヴィトン社のモノグラム・ラインにある花のモチーフから取られており、ヴァンクリーフ&アーペルの「アルハンブラ」をモデルにしたものでないこと、そのモチーフをセミプレシャスストーンにして円形の金に嵌めるというデザインはジュエリーデザインの流行を追ったもので、リシュモングループはそうしたデザイン技術を独占する権利はないことから、フリーライド(ただ乗り)の構成要件は成立していないと判示した。

 

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