The place of women in corporate governance – Interview with Viviane de Beaufort

男女平等とコーポレートガバナンス : ビビアンヌ・ド・ボーフォール

ビビアンヌ・ド・ボーフォール (Viviane de Beaufort)

(ESSEC経済商科大学院教授)

欧州統合が進む時代に思春期を過ごす。フランス人シモーヌ・ヴェイユの欧州議会議長としての活躍などを見る中で欧州連合の理念に強く惹かれ、パリ第1、第10大学で欧州連合法と政治学を専攻。当初は公務員となることを目指し、単一欧州議定書協議の時期に欧州共同体で勤務するが、後にヨーロッパの未来を作るのは教育との信念から大学教授となることを決意。ヨーロッパ法博士号取得後パリ第1大学で教鞭をふるう。

1996年よりESSEC経済商科大学院でヨーロッパ法の教授を勤め、2006年に欧州委員会からジャン・モネ・チェアーを授賞、2008年同大学院内にEUシンクタンク、欧州法律経済センターを設立し、館長となる。 同大学院の法学コース学部長 。

欧州会社法の第一人者で競争法、国際商法、株式公開買付、企業組織法、コーポレート・ガバナンス、企業の社会的責任のほか、公共管理、NGOのロビー活動、欧州市民権、比較制度分析などを主なテーマとし、これまでに約130の論文、11の著書がある。

2008年からジェンダー・ダイバーシティの問題に取り組み、北米での状況を視察したのち、フランスのグランゼコールとして初めてESSEC 経済商科大学院に女性のみを対象とした管理職・企業幹部・起業家養成コース 、 « WOMEN ESSEC » を立ち上げた。その中でも取締役に就任する女性の養成プロブラムである« Women be European Board Ready »では法律、財政、企業戦略、比較社会学、心理学、人材開発など多様な分野の専門家と共に、女性が取締役・執行役に就任するに当たって必要な知識と能力、そしてジェンダーに関する従来の固定観念を乗り越える態度の養成を行っている。

Women’s Forum などの国際女性ネットワークで中心的な存在。EU への貢献、改革的な大学教育などでの業績が高く評価され、2011年に国家功労勲章騎士号を受勲した。28歳の娘の母。

永澤 : 2008年にESSEC経済商科大学院で女性のみを対象とした企業幹部・起業家養成コースを立ち上げたきっかけは何ですか。

ド・ボーフォール : 当初は起業する女性をサポートするプログラムを作ることが目的でしたが、その後フランスで企業の取締役会における男女同数幹部の義務化(クオータ制)が審議される中、取締役に就任する女性をサポートすることが非常に重要になりました。実際に女性が企業内で幹部として経歴を高めていくことができるためには、単に取締役会の女性の数を増やすだけでは十分ではなく、職業キャリアの各段階、企業の全ての部署内で意欲のある女性がキャリアを高め、能力を発揮していくことができるための制度を整える必要があるからです。

フランスは女性の就業率が高いことで知られていますが、女性が企業内で昇進するのを妨げる « ガラスの天井 »のような企業慣行の防止や、男女労働者間の完全な給与と年金額の実施を政府が監視すること、そして高い能力を持った若い女性が出産した後育児と仕事を両立し、経歴をさらに高めていくことができるようにサポートすることはまだフランスでも必要です。

そのため ESSEC経済商科大学院では、能力のある若い女性をサポートする « Femmes et Talents »、女性が企業に勤めた後自らのビジネスを立ち上げる場合に必要な知識を養成し、外部ネットワークとつなげる « Entreprendre Au Féminin »、そして企業の取締役、執行役、役員に就任する女性を養成する « Women be European Board Ready »の3つのプログラムを置いて、女性がキャリアの各段階で直面する問題に対応しています。

永澤 : « Women be European Board Ready »プログラムでは、女性が企業を管理するために必要な能力だけでなく 「態度」も養成するということですが、具体的にどういうことですか。

ド・ボーフォール : 企業の取締役は男性が多数派を占める役員の中から選ばれるのが通例でしたが、コペ・ジンメーマン法 で大中企業の取締役会における男女同数制が義務づけられるようになったため、執行役員や上級管理職のポストにいる女性、また弁護士など自由業の女性から取締役が選任されるようになりました。
企業の執行役員と取締役の任務は違い、執行役員は業務を執行する役割を担う一方、取締役は執行された業務を監督し、必要な戦略を助言、提案する役割を担います。« Women be European Board Ready »プログラムでは、取締役に就任する女性が意思決定者、監督者として必要な態度を身につけて、この役割変化にうまく対応するための養成教育を行っています。また取締役会でまだ少数派の女性が、コンプレックスなく自然に意見を述べることができるようになるためのトレーニングも優秀なコーチ、また外資系企業の場合にはその国の企業文化に通じた専門家を交えて行っています。

永澤 :取締役会における男女同数制を義務づけたコペ・ジンメーマン法の効果はどのように受け止めていらっしゃいますか。

ド・ボーフォール : 2011年以降のフランスにおけるクオータ制の導入は、国内外で大きな反響を呼び、スペインやドイツなどの法律、モロッコやカナダの法案のモデルとなりました。政府の監督のもと各企業で実施され、違反企業に対する制裁も強められています。EUでもフランスのモデルにかなり近いクオータ制の導入を全加盟国に義務づける指令案が審議されています。
北米と違ってラテン的な女性観がまだ強いフランスでは、企業文化を根本的に変えるためには法律で企業に男女同数幹部を義務づけることが不可欠でした。このアファーマティブ・アクションは暫定的で、2017年に40%の目標が達成されればそれ以降は企業が自発的に女性取締役の任命に積極的になるためクオータ制を法律で義務づける必要がなくなると考えられています。法律施行以後、企業社会全体の意識も次第に単にジェンダーの観点で女性を取締役に起用するという考え方から、取締役会の価値を高める有能な人材を起用するという考え方に変わってきています。

コペ・ジンメーマン法は、対象企業で女性取締役の数を増やす高いレバレッジ効果を挙げているだけでなく、世論の強い支持により法律が適用されない分野、例えば会社の社長と副社長の任命のレベルにまで影響を及ぼしています。
一般に女性幹部は倫理観が強く、理想を大事にし、男性幹部よりも企業の管理が厳格であるという国際的な統計があります。 従って取締役会のダイバーシティを促進し、より多くの有能な女性が企業の意思決定に参画することは、単なる男女平等の見地からではなく、企業管理の質の向上、競争力の強化の見地からも重要なことです。

永澤 : 日本企業の取締役会で女性が占める割合はわずか1%、衆議院ではわずか8%で、クオータ制の導入はまだまだ先のように思えます。日本で男女平等を実現するために努力している女性達に届けるメッセージはありますか。

ド・ボーフォール : 去年パリで開催された世界女性サミットで日本の女性に何人か会いましたが、その中で東京都都知事補佐官を務めている40代の女性と話をする機会がありました。彼女から、日本で男女機会均等を実現するために努力しているが周りの政治家の意識を変えるのが非常に難しい、自分は独身で子供もいない、という話を聞き、日本ではキャリアアップを目指す女性が家族生活を犠牲にすることを強いられているのではという印象を受けました。

永澤 : 日本ではフランスのようにベビーシッターや託児所の施設が十分ではなく、子供を持つ女性がキャリアを高めていくのが難しい状況があります。

ド・ボーフォール : 確かにそれも一つの理由ですが、問題はより深いのではないでしょうか。何よりも、子供がいるのに仕事を続ける女性を母親の義務を十分に果たさない女性、悪い母親とする社会の目が問題の根本にあるのではないかと思います。ヨーロッパではドイツがこのケースですが、日本ではおそらくこの傾向はもっと強いでしょう。働く女性を「悪い母親」とするこうした考え方は国民性からくるもので、変わるまでに長い時間がかかると思います。
日本の女性はまだ世界的に孤立していますので、Women’s Forumのような国際的な女性フォーラムを日本で開催するのがいいと思います。こうしたフォーラムを通じて日本人女性も国際的なネットワークを作っていけば、集団的な意識も次第に変えていくことができると思います。

また欧州議会の議員を日本に招いて講演会を開催するのも一つの案です。欧州議会には女性の権利推進委員会があり、EU加盟国におけるダイバーシティの促進を積極的に進めています。日本はドイツと国民性が似ていますので、メルケル政権のもとでドイツがクオータ制を導入したことをドイツ人の男性議員が日本で紹介することは、日本人がこうした問題をより身近に感じるために効果があるのではと思います。

欧州のダイバーシティ政策の背景には、金融危機以降の景気不安定と高齢化社会という事情があります。日本も同様の問題を抱えていますので、これ以上高学歴の女性の能力を無駄にしないための制度改革を確実に進めていく必要があると思います。学費がとても高い日本で、高い学歴を持つ女性が出産後、職場でキャリアを高めることができずに子育てに従事する状況を放置することは、経済的な観点からも合理的ではありません。

永澤 : 欧米企業では国連のグローバルコンパクトやOECDのガイドラインに添って 、企業の社会的責任(CSR) には男女平等、性別による差別禁止に関する措置が含まれていますが、日本ではCSRは企業による環境への配慮、市民社会への貢献としか一般に理解されていません。このことについてどう思われますか。

ド・ボーフォール : CSRは何よりも経営革新のためのものなので、日本企業がCSRを発展のツールとして活用していないことは残念に思います。福島の原発事故後、日本ではそれまでのビジネスモデルを考え直し、CSRをより積極的に取り入れる機会があったのではないでしょうか。国際機関の統計でも企業における男女の機会均等の問題で、日本は最下位となっています。グローバルコンパクトに加入している欧米企業の支社が、日本で顧客や取引先企業に対してグッドプラクティスを実施していると思いますが、今後日本企業がより積極的にこれらの要素をCSRに導入していくことが望ましいと思います。

永澤 : 日本では結婚の際通常女性が自分の姓を放棄して男性の姓になります。 数年前夫婦別姓の選択を可能にする法案ができましたが、家族のきずなを崩壊させるなどの理由で国会に提出されませんでした。

ド・ボーフォール : 家族のきずなは姓で決まるものではなく、また家庭は男性を中心に築かれるという考え方は遅れていると思います。同じ姓を持つ夫婦の離婚は数多く、また現実にも夫の姓で女性が職業上知られている場合、離婚後その姓を維持できなくなると大きな問題が生じるので、社会における女性の地位向上をうたう一方で、夫婦別姓を認めないことには矛盾があるのではないでしょうか。何よりも結婚してどちらの姓を持つかということは個人の選択の問題ですので、国が夫婦に選択の自由を認めるという立場の方が進んでいると思います。

仕事と私生活の両立という点に戻りますが、フランスでは社員が週に何日か自宅で仕事をすることを認める「遠距離通信労働に関する企業合意」(Charte de télétravail) という制度が多くの企業で一般化しつつあります。社員が自宅で仕事をすることは企業にとって社員の士気と効率性の上昇、交通費などの費用の節約といったメリットがあるだけでなく、大気汚染の減少にもつながるため、多くの大企業で実施されている制度です。日本は情報通信技術が発達した国なので、日本企業もそうした情報通信技術を使って職場での長時間労働を重視する慣習を見直し、能力と成果を重視する制度、子供のいる女性が家庭を大事にしながら同時に能力を十分に発揮して職場で業績を挙げていくことができる制度を取り入れていけばいいと思います。

永澤 :社会で活躍する母親と子供のきずなについてどう思われますか。

ド・ボーフォール : 私自身、仕事をする母親を見ながら育ちましたが、仕事をする母親を持つ子供の方が主婦の母親を持つ子供よりも自立心が高く、大人になってから特に女の子は出世する、男の子は家族を大事し家事に積極的に参加するようになるというハーバードビジネススクールの論文 を最近読みました。思春期の子供にとって、キャリアを高めながら社会に貢献しているという生きがいを持って輝いている母親は尊敬の対象、人生のモデルとなります。また実際にも子供が大学を出て就職する際に母親が会社の取締役などとして社会で重要な地位にあれば、子供は母親から必要なアドバイスを受け、そのネットワークを活用することができるという大きなメリットがあります。

私の娘は巷にいう「ジェネレーションY」で、男女平等が当然と思っている世代ですが、娘たちの世代にとってよりいいフランス社会、若い女性が人生を選択することができる社会を作りたいという思いがあって、これまでダイバーシティの問題に取り組んできました。仕事はすごく忙しいですが、娘とのきずなは年とともに一層強まっている気がします。娘の彼はもちろん家事に参加しますが、二人が家庭を作るようになったら多分彼よりも私の娘の方が出世して偉くなるんじゃないかと思います。
娘達のようなカップルのあり方は社会におけるダイバーシティが個人の意識のレベルにまで及んできていること、昔のように « 男は仕事、女は育児 »というモデルに合わせて人生を決めるのではなく、各々が自分の持っている能力を自覚して夢を叶えるために人生を選んでいくという価値観が国民に行き渡っていることを表しています。私の世代でフルタイムで仕事をしながら、娘に「夢を大事にしなさい ! 」とうるさく言い聞かせてきた女性は数多いので、フランスでこの数十年間急速に昔のモデルが廃れて国民の価値観が変わったのもそのためだと思います。

永澤 : これまでの人生で苦労したこと、生きる上で指針にしていることはありますか。

ド・ボーフォール : 私の両親はカトリックで常に人に与えることを大事にしろといわれて育ちました。仕事でも目先のゴールではなく、より高い普遍的な理想、周りの人に与える、自分の持っている物-資産にせよ、能力や知識にせよ-を分け与えて幸せにすることを中心に考えていると、似た考えを持った人達、同じ理想を追う人達が自然に周りに多くなり、夢を叶える道も開けて必ず成功につながります。

苦労した点は、いつもやり遂げたいことが多すぎて体を使い過ぎてしまうことです。若い頃から今までバカンスもろくに取らずに朝から晩まで仕事をしてきましたが、周りの人には一つの目標を遂げたら必ず休養を取ることを忘れないようにとアドバイスしています(笑)。

 

(2015年6月インタビュー)