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国際労働契約の準拠法

(破棄院刑事部2014年3月11日判決、上告番号n°11-88420 Sté EasyJet Airline Company ; n°12-81461, Sté Vueling Airlines)

外国に本社を持つ外国籍企業がフランス人と労働契約を結ぶ場合や外国で労働契約を結んだ労働者をフランスに長期的に派遣する場合、その労働者の労働契約にフランス労働法の規則が適用されるかが問題となる。

国際労働契約の準拠法について、フランスで現在適用されているルールは2008年6月17日欧州理事会で採択された「契約債務の準拠法に関する規則」(« Rome I »規則)で、第8条第1項で原則と特則が以下の通り定められている。

①労働契約の当事者は契約に適用される準拠法を自由に選択することができる。当事者はまたいつでも双方の合意により契約に適用される準拠法を変更することができる(自由選択の原則)。

②ただし労働契約で準拠法が選択されている場合でも、規定されなかった場合に適用される法律による労働者の保護規定は、それが労働契約で選択された準拠法の規定よりも労働者にとって有利である場合には、準拠法の規定に代わって適用されるものとする(強行規定適用の特則)。

Rome I 規則はまた同条2項で、労働契約に準拠法が定められていない場合には、等労働契約には労働者が通常労務を提供する場所の国の法律が適用されるものとし、この「通常労務を提供する場所」は、一時的に労働者が別の国で労務を提供する場合にも変わらないものとすると規定している。

従って、労働契約でフランス以外の国の法律が準拠法であると定められている場合であっても、労働者の通常労務を提供する場所がフランスである場合にはフランス労働法の強行規定がその労働者の労働契約に適用されることとなる。

まず、強行規定の概念について、フランス裁判所の判例で外国法を指定する国際労働契約に強行的に適用されるとされているフランス労働法の規定には以下のようなものがある。
解雇その他労働契約終了の手続に関する規定(パリ控訴院, 1999年10月6日判決 Steinman c/ Société générale)、有期雇用契約終了の手続に関する規定(破棄院社会部2008年3月12日判決 n°01-44654, M. X c/ sté Sportive IL Gabbiano)、試用期間の長さに関する規定(破棄院社会部2013年3月26日判決 n° 11-25580, M. X c/ Cityjet Ltd)、時間外労働に関する規定(コルマール控訴院, 2013年2月7日判決 SAS Crit Interim c/ M. Eddib)、従業員の雇用の申告と社会保険料支払に関する規定、及び不法就労斡旋の制裁に関する規定(リヨン控訴院2013年5月28日判決Miny c/ SA Jet Cruising)。

次に通常労務を提供する場所の概念については欧州司法裁判所の判例で、労働者の通常労務を提供する場所とは「労働活動の実質的な中心地」であり、それを決めるにあたっては労働者が労働時間の大半を過ごした国がどこか、そしてその国に当該労働者が雇用者に対する労務提供のベースとしている事業所があるかが判断の基準となるとされており(C-383/95 Petrus Wilhelmus Rutten c/ Cross Medical Ltd事件, 1997年1月9日判決)、この基準がフランス裁判所により用いられている。

なおフランスに短期的に派遣される外国籍企業の労働者については、原則的にもとの労働契約が維持されるが、フランス労働法L1262-4条で、以下のフランス労働法の規定は労働契約の準拠法がいかなる国の法律にも関わらず、強行的に適用されると規定されている:労働関係における人権の尊重に関する規定、差別禁止と男女平等の原則に関する規定、妊娠した女性労働者の保護、産前産後休暇に関する規定、パートタイム労働における従業員の権利の保障に関する規定、労働時間、有給休暇、祝日に関する規定、労働者のストライキ権に関する規定、最低給与額に関する規定、職場の厚生と安全に関する規定、就業可能な最低年齢に関する規定、違法労働に関する規定。

フランス法ではまた外国籍企業が実質的にフランスで雇用されフランスで労務を提供する労働者を外国で雇用された短期派遣労働者として労働契約を結び、L1262-4条で定められた規定以外のフランス労働法の規定の適用から逃れることを防止するために、L1262-3条で、従業員の労務がフランスを対象とするものである場合、またはフランスに所在する事業所や組織において日常的、継続的かつ長期的に提供されるものである場合には、その労働契約には短期派遣労働者に関する規定は適用されないと明記されている。

航空会社については2006年11月21日の政令で民間航空法に新しくR330-2-1条が設けられ、フランスを対象として事業を行う、またはフランスに所在する事業所や組織において継続的に事業を行う全ての民間航空業者に対し、労働法L1262-3条の規定を適用して、労働活動の実質的な中心地をフランスとする従業員の労働契約に短期派遣労働者に関する規定を適用することが全面的に禁止された。

本判例は外国籍企業による違法な短期派遣労働者契約にフランス労働法が適用されたケースである。

本件では、イギリスとスペインの航空会社であるEasyJet社とVueling社が、 フランスで労務を提供しているパイロットやスチュワーデス、その他の従業員をイギリス、スペインで雇用された短期派遣労働者として雇用し、フランスの社会保険に加入させていなかったため、不法就労斡旋の罪で告訴されたものである。両社ともに第一審、控訴審(パリ控訴院2011年11月8日判決、2012年1月31日判決)で有罪とされ、それぞれ100000ユーロの罰金刑と従業員への損害賠償支払に処された。

EasyJet社、Vueling社は、同社の従業員は短期派遣労働者でありイギリス、スペインの社会保険に加入しているのでフランスの社会保険に加入する義務はないと主張して上告を行ったが、破棄院は2014年3月14日の判決で、両社はフランスを対象として、フランスに所在する事業所、組織において日常的、継続的かつ長期的に事業を行い、また従業員の労働活動の実質的な中心地はフランスなのであるから、その労働契約に短期派遣労働者に関する規定を適用することはできず、フランス法に従って社会保険に加入させる義務があるとして上告を棄却した。

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