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外国企業の取締役にフランス裁判所の刑罰権が及ぶ条件

(破棄院刑事部, 2014年6月25日, n°13-84445, sté P.T.S. c/ M. G)

フランス刑法113-2条は、フランス刑法はフランス国内で行われた犯罪に適用され、フランス国内で行われた犯罪とは、その構成要件となる行為の一つがフランス国領域内で行われたものを指すとすると規定している (属地主義)。

外国企業の取締役が責任を追及されうる刑法上の犯罪には、脱税、詐欺罪、背任罪、詐欺破産罪(banqueroute)やその他破産・倒産手続における犯罪などがあるが、こうした刑法典に規定されている犯罪では、その構成要件となる行為が一つでもフランス内で行われた場合には、フランスに子会社のない外国企業の取締役もフランス企業の取締役と同様フランスの検察官により訴追されうる。

一方、業務上横領罪は、商法典で一定の会社について規定されている犯罪であるが(有限会社:商法L241-3条、株式会社:商法L242-6条)、フランス商法はL210-3条でフランス商法典はフランスを本社所在地とする会社に適用されると規定していることから、外国企業の取締役が業務上横領罪の構成要件となる行為をフランスで行った場合、例えば外国企業の社長が外国に本社所在地を置く会社の口座から現金を着服してフランスにある自分の口座に入金したような場合に、フランスの裁判所がその外国企業の社長を業務上横領の罪で追訴できるかが問題となった。

破棄院の判例では、商法L210-3条の適用によりフランス商法で規定されている業務上横領罪はフランスを本社所在地とするフランス国籍の企業に適用される(属人主義)が(刑事部2004年6月3日判決, n°03-80593)、外国を本社所在地とする外国籍の企業でも、フランス内の顧客を対象とする事業を行い、フランスに事業の窓口を有するなどその活動が実質的にフランス企業と変わらない場合には、事実上のフランス企業であるとして、業務上横領を行った外国企業の取締役にフランス裁判所の刑罰権を及ぼす原則が打ち出されている。

この原則の適用により、1994に開始したエルフ・アキテーヌ社取締役による汚職事件の裁判で、ガボン共和国に本社所在地を置くエルフ・ガボン社の資金数千万ユーロを横領したエルフ社取締役やその関係者に対し、破棄院は2007年の判決で、エルフ・ガボン社の資本金の大部分がフランス企業により保有されていること、同社がフランス国内に事業の窓口を有していること、社長がパリに居住していること、及び不正な資金の横領はフランスのエルフ社の取締役が決定したことを理由に、エルフ・ガボン社は事実上のフランス企業であるとして、業務上横領罪が成立すると判示し、禁錮刑と罰金に加え各々着服した資金全額の返還を命じる控訴院の判決を確定させた(刑事部, 2007年1月31日判決, n°05-82671)。

業務上横領を行った外国企業の取締役にフランス裁判所の刑罰権を及ぼさせる条件は案件ごとに事実審裁判所で審査され、その企業が事実上フランス企業と見なされるか否かが判断される。

本件では、スペイン国籍の会社Protesic Trans SL社の社長X氏が、違法な運送業経営、書類偽造、業務上横領等の罪でフランス裁判所から8ヶ月の禁錮刑と15000ユーロの罰金に処された事件である。同社長はイギリスにある会社の請求書を偽造し、Protesic Trans SL社の資金を使って個人的な出費に充てていた。ポー(Pau)控訴審は2013年5月30日の判決で、Protesic Trans SL社の事業はフランスで行われていたため架空のスペイン企業であり、同社の資金を横領する行為にはフランス商法の業務上横領の罪が成立すると判示してX氏に有罪判決を下したが、これに対しX氏は控訴院の判決は業務上横領罪の成立要件である不正な資金の横領の決定がどの国で行われたかについて理由を述べていないとして上告を行った。2014年6月25日の判決で破棄院は「Protesic Trans SL社は事業の拠点とその窓口をフランス国内に有するのであるからフランス刑法が適用される」として上告を棄却した。

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