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賃貸借契約中の解除条項を適用する場合の手続

(破棄院民事第3部, 2016年5月12日判決、上告番号15-14117, Suite 114 rue du Bac c. SCI Pardes Patrimoine)

商事賃貸借契約中には多くの場合、借主が契約義務に違反した場合、特に家賃の支払が滞った場合の解除条項(clause résolutoire)が規定されている。

フランスの商事賃貸借の期間は原則9年であるが、借主の営業財産を保護するために法律で契約更新権が認められているため(商法L145-8条)、家主は例え9年の契約期間が終了した後でも恣意的に賃貸借契約を解除することができない。

家主が借主の過失を理由に賃貸借契約を解除し、強制退去の手続を取って別の借主に物件を貸すことができるためには、物件が所在する場所の大審裁判所に契約解除請求の本案訴訟を提起し、借主の契約義務違反が商事賃貸借契約の解除を正当化するほど重大なものであることを十分に証明する必要がある。
一方契約書中に解除条項が規定されている場合には、家主は単に借主が契約で定められた義務に違反している事実を証明するのみで足り、借主の過失の重大性を証明する必要はない。
このように契約中の解除条項は家主による賃貸借契約解除を容易にするものであるが、借主の権利を守る必要性から、条項の規定は裁判所により厳格に解釈され、曖昧な条項や適用範囲が広すぎる規定は無効とされる。例えば単に「家賃を1か月滞納した場合」の契約解除を規定した解除条項は、借主が管理費や家賃値上げの際の差額、その他遅滞罰金を支払わない際には適用することができない。

また解除条項の適用は借主の過失が賃貸借契約で定められた義務の違反を構成する場合のみに限られ、例えば借主が同じ家主から同じ建物で別の物件を住居として借りていたがその住居で商業活動を営んだような場合には、商事賃貸借契約で定められた義務の違反を構成しないため、解除条項を用いて契約を解除することはできず、家主はその借主の過失が商事賃貸借契約の解除を正当化するほど重大なものであることを証明して裁判所に契約解除請求訴訟を提起しなければならない (破棄院民事第3部2010年9月15日判決、上告番号09-10339 SCI du 53 rue de la Chaussée d’Antin c. société DB gestion)。

契約中の解除条項が適用される場合、家主は以下二つの手続を踏んで賃貸借契約を解除する必要がある。

①借主に催告書を通達すること、そして

②解除条項の発効が裁判所により確認されること。

①催告書の通達

家主はまず執行官を通じて借主に契約義務の違反をやめる催告書(commandement)を通達する必要がある。この催告書には必ず、賃貸借契約書で定められた義務と、借主の履行期限1か月が記載されなければならない。この1か月の期間内に借主が契約義務を履行しない場合にはじめて、解除条項が発効する (商法L145-41条)。

この1か月の借主の履行期限を定めた商法L145-41条の規定は強行法規であり、賃貸借契約書中の解除条項で1か月以下の借主の履行期限が規定されている場合には、解除条項自体が裁判所により無効とされる(商法L145-15条、  (破棄院民事第3部2010年12月8日判決、上告番号09-16939、SCI Challenge c. SNC Le Longchamp (15日の履行期限を定めた解除条項が無効とされた例) 、破棄院民事第3部 2013年12月11日判決、上告番号12-22616、société Icade c. société Western corporation (30日の履行期限を定めた解除条項が無効とされた例)。家主はたとえ商法L145-41条の1か月の期間を置いた履行催告書を通達しても、解除条項自体が完全無効であるため、賃貸借契約を解除することはできない。

一方、この1か月の履行期限は最低期限であるため、賃貸借契約中の解除条項でそれよりも長い履行期限が定められている場合には、家主はその期限を守って解除手続を行う必要がある。例えば解除条項で3か月の履行期限が規定されている場合に、家主が1か月の期限を置いた履行催告を通達すると、手続は無効である(グルノーブル控訴院2016年2月4日判決、案件番号15/04629, SARL Résidence Deneb c. F.)。

②解除条項の発効を確認する判決

催告書で規定された期間内に借主が契約義務を履行せず、解除条項が発効する場合には、家主はさらに、物件が所在する場所の大審裁判所に解除条項の発効確認を請求し、借主の強制退去手続の許可を得る必要がある。家主が契約を解除する法的権利は解除条項が発効すること自体から自動的に発生するのではなく、解除条項の発効を確認する裁判所の判決により認められる必要があるためである。

この裁判所の判決は、借主が異議を唱えることができないものとなるためには確定判決、すなわち既判力を持った判決であることが必要である。従って家主の催告書通達から1か月が経過しても、裁判所の確定判決が出るまでは借主はいつでも裁判所に対して、家賃の支払期限と解除条項の効果停止を請求する訴訟を提起することが可能であり、判例では控訴審で初めて提起された借主の支払期限請求でも有効であることが認められている。

家主は解除条項の発効を裁判所に確認する請求をレフェレの手続で行うことができるが、レフェレの手続で大審裁判所の裁判所長が下す仮判決(ordonnance de référé)には既判力がないため(民事訴訟法第488条)、たとえ仮判決に借主が控訴期間である15日以内に控訴を行わず仮判決が執行力を持つものとなっても、借主は本案訴訟を大審裁判所に提起し、家賃の支払期限と解除条項の効果停止を請求することができる。借主が支払期限を請求する場合には、裁判所は事案を検討して借主が善意であることが認められる場合には、最高2年の支払期限を認める(破棄院民事第3部 1993年10月27日判決、上告番号91-19563、1999年5月19日判決、上告番号97-19608、1999年9月29日判決、上告番号98-12399、SNC Mage c. consorts X)。

逆に、レフェレの手続で大審裁判所の裁判所長が家賃の支払期限と解除条項の効果停止を借主に認めた場合には、借主はその支払期限を守らなければならず、期限を守らない場合にはその時点で解除条項の発効が確認される。借主はレフェレの判決に既判力がないことを理由に新たに大審裁判所に家賃の支払期限と解除条項の効果停止を請求することは認められず、家主の強制退去の手続に応じなければならない(破棄院民事第3部 2003年4月2日判決、上告番号01-16834、société Foncière Burho c. société Clayton)。

本件ではこの原則が新たに破棄院により確認された。

2006年5月15日の商事賃貸借契約で、民事不動産会社SCI Pardes Patrimoine社はCinq sur Cinq社に対して、パリ7区114 rue du Bacにある商事物件の賃貸を認めた。その後Cinq sur Cinq社は同物件で築いた営業財産をSuite 114 rue du Bac社に譲渡し、Suite 114 rue du Bac社が新しく借主となったが、Suite 114 rue du Bac社は売り上げが伸びずに家賃と管理費を滞納したため、家主であるSCI Pardes Patrimoine社から賃貸借契約中の解除条項を適用した13.765,29ユーロの支払催告書を2010年8月30日付で通達された。

借主であるSuite 114 rue du Bac社は催告書の1か月の履行期限内に定められた額の支払を行わなかったため、家主SCI Pardes Patrimoine社はパリ大審裁判所裁判所所長にレフェレを提起し、解除条項の発効確認を請求した。レフェレの法廷にSuite 114 rue du Bac社は出頭しなかったが、パリ大審裁判所所長は2010年12月1日、解除条項の発効を確認し、Suite 114 rue du Bac社の強制退去、及び2010年11月30日付で未払いと家主が主張していた8.610,37ユーロの支払と2010年12月1日から退去日までの家賃と管理費の支払を命じる仮判決を下した。

SCI Pardes Patrimoine社はこのレフェレの仮判決を元にSuite 114 rue du Bac社の強制退去手続を行い、退去させられたSuite 114 rue du Bac社は破産届出の後2011年4月27日に法的清算手続を開始した。

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