揺るがないヨーロピアン・ドリームへの信念

ペルヴェンシュ・ベレス

(政治家、欧州議会議員)


ヌイイ市のインテリの家庭に育つ。パリの書籍商ピエール・ベレスの娘。思春期にベトナム戦争やチリクーデター等波乱な国際時勢を経験し、パリ政治学院で政治を専攻。卒業後国民議会に勤務、社会党に入党。当時国民議会議長だったローラン・ファビウスに補佐官として抜擢され、党内で昇進する。

1994年欧州議会議員選挙に当選しキャリアを飛躍させるが、翌年パリ市内をスクーターで移動中普通車のパトカーに跳ねられ、3日間昏睡、数週間味覚、嗅覚、声を失う大ケガを負ってしまう。
手術を数回重ねても顔がもとに戻らない中、政治家としての信念を捨てず、事故から3か月後に党会議に赴き「事故にあったからといって脇役になる理由はない」と演説した。

その後20年間、欧州問題への深い造詣と猛烈な仕事力で欧州議員、欧州問題専門家としてトップの座を確立。1997年フランス社会党代表部長、2004年経済金融委員会委員長、2009年雇用社会問題委員会委員長として、サブプライム危機以降不安定な欧州経済と失業問題、ギリシャ危機の解決に取り組む。現在EUの新しい経済ガバナンスとユーロ圏の財政統合を推進。26歳と28歳になる二人の息子の母。

 

永澤:20年前、どのように事故のショックを乗り越えられましたか。

ペルヴェンシュ・ベレス :「レジリエンス 」です。人生でぶつかる至難は本当の自分を見出し、限界を超えるきっかけだと思っています。ですから私は事故後、事故で受けた障害を乗り越えるために全ての能力とエネルギーをかけて仕事に打ち込みました。

思春期の頃経験した国際情勢から社会主義と国際政治に尽くそうと心に固く決めていましたので、事故後回復が難しかった時も夢をあきらめようと思ったことはありません。

人生でつらい出来事があった時、それが残りの人生で障害となり続けるかどうかは周りの人間ではなく本人が決めることです。本人が、そうした出来事は乗り越えられると信じて努力をしていれば、周りの人間も支えてくれるようになります。

確かに1999年の欧州議員選挙の際には、事故で顔が歪んだ私が候補者名簿でNo.2になることについて党指導部でためらった者もいましたが、人の見かけより重要な事柄が欧州で問題となっていることに、幸い気づいたようです (笑)。

永澤 : 男女平等はEUの基本原則の一つですが、EUにおけるダイバーシティについて教えて下さい。

ベレス : 欧州議会では女性議員数は全議員数の37%です。

フランスでは2000年のパリテ法 以降、比例代表制の選挙でクオータ制 が義務づけられ、ダイバーシティは憲法上の原則となっています。現在フランス欧州議員のうち女性は46%、ほぼ半数です。

EUでは取締役会の4割を女性とすることを加盟国の大企業に義務づける指令がここ数年整備されてきましたが、EU理事会のいくつかの加盟国閣僚の反対で、現在保留となっています。

多くの女性が企業の取締役となることは、世界経済危機の原因となった投機的でリスクの多い経営管理から、理性的な経営管理に変わるために有益ですので、取締役会のダイバーシティはコーポレートガバナンスの重要な課題です。

永澤 : キャリアを高める中、女性として直面した問題はありましたか。

ベレス : 私が政治家としてキャリアを高めたのはちょうどフランスで女性幹部の登用が重視されていた時期で、ミッテラン大統領が多くの女性を閣僚に起用していました。

社会党はパリテ法前にクオータ制を最も早く導入しており、94年の欧州議員選挙ではミシェル・ロカールが男女候補者を交互に名簿に載せることを決めていましたので、女性であることは当初私が欧州議員選挙の候補者に選ばれる上でむしろメリットでした。

女性がキャリア上直面する問題の一つは家族生活との両立ですが、私は男性に依存した生活は想像したことがなかったので、子供を産んでも自分のキャリアを築くのが当然でした。

もちろん働く母親がみな経験するように、育児も完璧にしたいと思い職場で罪悪感を感じることはもちろんありましたが、息子達にとっては、家事に専念して不満を抱えた母親を見ながら育つよりも、仕事に励んで生きがいを感じている母親を見ながら育って良かったと思っています。

二人とも特に問題なく成長し、一緒に暮らす彼女のキャリアをとても尊重する男性になりました。社会における女性の地位を理解する上で、私が一つの見本になったのではないでしょうか。

永澤 : 今日のユーロ経済低迷の原因は何ですか。

ベレス : EUの経済統合が不完全だったことです。それまでEUでは加盟国がそれぞれ自国の経済・財政政策を決めており、EUとして一つの政策を決めたりそれを加盟国に強制することはなく、ユーロ圏では単に財政バランスを取る義務が各国に課されているだけでした。

近年の世界経済危機とそれに続くギリシャ危機、欧州債務危機 を通じて、一つの通貨を導入しながら加盟国が独自の経済政策を決める「経済通貨同盟 」の問題が明らかになりました。財政管理がずさんで赤字を続ける国や、自国の経済だけ保護して財政黒字を続けようとする国があると、ユーロ圏全体の経済が不安定になるからです 。

そのためEUでは2011年以降、各国の経済政策を協調させ、監視を強める多くの措置が導入されましたが、問題を根本的に解消して将来同様の経済危機にさらされないためには、経済通貨同盟を完全なものにすることが必要です。

永澤 : 現在進められているEU経済システムの改革について教えて下さい。

ベレス :  沢山ありますが、例えば現在ユーロ圏ではそれぞれの国が賃金制度を定めており、いくつかの国の賃金制度の問題がユーロ圏の国々の間で経済格差を広げるもととなっています。これを解消するために、各国にその国の経済状況と賃金レベルを監視する独立の機関を置き、その報告に基づいてEUが経済格差をなくすための政策を決めるシステムが予定されています。

また例えば、欧州債務危機では加盟国の債務が民間銀行、そして銀行に預金をしている私達市民に深刻な影響を与えることが明らかになりました。近年EUでは、各国の銀行がリスクの高い取引をしないよう欧州中央銀行 が監視する制度を導入しましたが、現在、加盟国の民間銀行が倒産した際にEU市民の預金を保護する共通保険制度の整備が進められています。

永澤 : フランスでは先回の欧州議員選挙で 極右が躍進し、ドイツでも反EU政党が議席を伸ばしています。イギリスもEU離脱の可能性がありますが、こうした中現在目指されているような統合の強化を進めることは可能ですか。

ベレス :  最近のポピュリズム(大衆迎合)政党の勢力拡大で、EU統合の強化が難しくなっているのは確かですが、だからといって改革を遅らせるのは妥当ではありません。

加盟国でポピュリズムが支持を集めている背景にはまさに、これまでEUが不完全な経済通貨同盟を放置しておいたため、世界金融危機に対応できなかったことがあります。
ですから市民が期待するような経済発展が将来EUで実現するためには、経済システムの不備を補完して、完全なものにすることが不可欠です。

イギリスは外交や防衛の点でEUにとって重要な国ですので、予定されている国民投票でユーロ懐疑論 が勝利してEUから離脱する場合には、ギリシャがユーロから離脱する場合よりもずっと深刻な打撃があるでしょう。

EUは全ての点でキャメロン首相に妥協すべきではありませんが、交渉が成功してイギリスがEUに残ることが、EUを完全にするためにとても重要です。

永澤 : 最後に、好きな音楽を教えて下さい。

ベレス :  ジャニス・ジョプリンの « Mercedes Benz »が好きです。

 

 

(2016年2月インタビュー)