不動産民事会社

 

フランスでは、不動産の購入の際に、 « SCI » (エスセーイー、 « société civile immobilière »の略、直訳「不動産民事会社」)という形態の会社名義で不動産資産を購入することがよくある。

SCIとは不動産の購入や管理を目的とする会社で、最低2人の株主で設立される。SCIが会社であることから不動産の管理は複数の者が共同所有者となる場合よりも効率的に行うことができ、賃貸を目的とする不動産投資の場合には、一人では出せない資金を複数人で出すことによりより価値の高い物件に投資することができるというメリットがある。

SCIは商事会社ではないので、不動産の売買で利益を上げることはできない。不動産の売買を目的とする会社は « marchand de biens » と呼ばれ、SCIとは区別される。

フランスでまたよく用いられるのは、同じ家族のメンバーが株主となる « SCI familiale » (直訳「家族的な不動産民事会社」)で、家の資産を子供に相続させる際に相続税を大きくセーブすることができる制度となっている。

 

1) SCIの設立手続

SCIの株主は自らまたは弁護士や公証人に依頼して、会社の定款(statuts)を作成する。会社の資本金には最低額はなく、株主は金銭出資、現物出資どちらも行うことができるが、株主の一人が不動産を現物出資する場合には、公正証書による定款を登記所に提出しなくてはならない。株主はそれぞれの出資額に応じた数の株をSCIに持つことになる。

株主は定款が作成された後、署名会議を開き、会社のの名義で開かれ、設立登記が終わるまでブロックされている銀行口座に出資金を振り込む。

SCIの社長(またはその代理人) は、法廷公示誌 (journal d'annonce légale) にSCIの設立を公示し、会社の所在地を管轄する商事裁判所の書記課に、署名された定款の原本1部を、« formulaire M0 »と呼ばれる会社設立の手続フォーム、社長の任命書、無犯罪証明書、会社所在地の証明書等の必要書類と共に提出する。提出された書類に問題がなければ、商事裁判所の書記課から登記事項証明書(K-Bis)が発行される。

 

2) メリット1 : 効率的な不動産資産管理

SCI名義で不動産資産を購入する場合には、個人名義で不動産資産を購入する場合よりも購入後の資産の管理がずっと効率的になるというメリットがある。

SCIは会社なので、代表者として社長(« gérant »)が、会社設立時に定款の中で、または株主総会で任命される(民法1846条)。SCIの社長は複数人がなることも可能である。

SCIの社長の権限の範囲は定款で定められるが、原則的にSCIの社長は、不動産の購入と管理のために必要な手続をSCIの名前で行うための幅広い権限を持ち、定款で例外的に株主の事前の決定を必要とすると定められている重要事項(例えば不動産の売買や抵当権の設置、会社の名前での借金など) 以外は、自らの判断でSCIの管理に必要な契約を結ぶことができる。

株主の決定は株主総会で行われるため、定款で規定された株主総会の定足数と議決権数がSCIの社長の権限の範囲を判断する上で重要となる。

例えば不動産の売却などの重要事項について株主総会の議決権数が半数以上と規定されていれば、SCIの株式総数の半数以上を有する株主が社長の場合、社長が不動産の処分を一人で決めることができることになる 。

フランスでは複数の者が不動産の共同所有者となることを「非分割所有」(« indivision » : それぞれの所有者の所有権が一緒になっているため)というが、この場合、各所有者が不動産資産について同等の権利を持つため、資産管理に関する決定、特に資産の売却は、共同所有者全員の合意が必要である(民法815-3条)。

例えば結婚した夫婦が共同名義で家を購入した後、仲が悪くなり離婚する際には、夫婦の一方が家の売却に合意しないと、他方は家を売りに出すことができず、裁判で財産の分割を請求しなければならない ( : 裁判による財産分与手続、 « partage judiciaire »)。

SCI名義での不動産保有は、定款を丁寧に作成してSCIにおける決定権の所在をはっきりさせておけば、こうした問題が生じないという点でメリットがある。

 

3) メリット2:相続税の節約

同じ家族のメンバーが株主となる« SCI familiale »では、祖父母、父母、子供達が会社の名前で不動産を購入してその管理を行うが、世代間の資産移転における節税の目的で設立されることが多い。その理由は以下の通りである:

通常親から子供に不動産資産を贈与する(名義変更をする)場合には、フランスでは公証人に依頼して公正証書の贈与契約を交わさなければならない。この場合不動産の所有権が親から子供に移転し、子供は贈与された不動産資産の価値に応じた贈与税を国に、手続費用を公証人に支払う義務がある。

一方SCI familialeを親と子供の間で設立する場合には、不動産資産の所有権は会社にあるので、株主の親と子供は不動産の贈与ではなく、SCIの株式の譲渡をすることになる。このSCIの株式譲渡は以下の点で、通常の不動産資産譲渡よりもメリットがある:

  • SCIの株式譲渡では当事者達が自ら、または弁護士に依頼して譲渡契約書の作成を行うことができ、公証人のもとで公正証書を交わす必要はない。従って契約書の作成にかかる費用を削減できる。
  • 譲渡税(« droit de mutation »と呼ばれる)の額は、不動産資産の価値自体でなく、SCIの株の価値をベースに計算されるので、SCIに負債がある場合、例えばローンを組んで不動産を購入した場合のローン残債がある場合には、SCIの資産の価値から負債額を引いた額が譲渡税計算のベースとなる。従って支払う譲渡税の額も不動産資産自体を譲渡する場合よりも低くなる。
  • 通常の不動産資産譲渡では不動産の所有権が移転するので、譲渡者である親は不動産資産の管理に一切権利を持つことができなくなるが、SCIの株式を譲渡する場合には、譲渡者である親はSCIの社長となることで、譲渡後も不動産資産の管理を行うことができるため、例えば子供に株を譲渡したSCIが所有するアパートに住み続けることができる。

こうしたメリットを生かして相続税を最大限にセーブするためにフランスで行われるのが、SCIの株式の所有権の分割(« démembrement de propriété »)である。

フランス民法において、「所有権の分割」とは、所有権を、資産を所有する権利(純所有権、« nue-propriété »と呼ばれる)と資産を使用してそこから利益を得る権利(用益権、 « usufruit »と呼ばれる)に分けることを意味する。

純所有権を持つ者は純所有権者(« nue-propriétaire »), 用益権を持つ者は用益権者(« usufruitier »)と呼ばれるが、ある資産の所有権が純所有権と用益権に分割されて、その後用益権がなくなる場合(:例えば用益権者が死亡する場合)には、資産の完全な所有権が純所有権者に帰属することになる。

SCI familialeの株式の所有権の分割では、SCIの株主たる親と子供が、それぞれ持つ株の所有権を純所有権と用益権に分割し、親がSCI株の用益権をキープしたまま、純所有権を子供に譲渡する。

フランスの税法上、用益権と純所有権の割合は、用益権を持つ者の年齢により定められている(一般租税法669条)。年齢を重ねるにつれて資産を使う年月が減るからである。

 

用益権者の年齢

用益権の割合

純所有権の割合

21 歳まで

90%

10%

31歳まで

80%

20%

41歳まで

70%

30%

51歳まで

60%

40%

61歳まで

50%

50%

71歳まで

40%

60%

81歳まで

30%

70%

91歳まで

20%

80%

91歳以上

10%

90%

 

例えば60歳の夫婦が子供と9対1の持株数の割合でSCIを設立して、1 000 000ユーロのアパートを700 000ユーロのローンを組んで購入する場合、夫婦が持つSCI株の価値は

(アパートの価値1 000 000ユーロ-ローン残債700 000ユーロ) x 90% = 270 000 ユーロ

一方子供が持つSCI株の価値は

(アパートの価値1 000 000ユーロ-ローン残債700 000ユーロ) x 10% = 30 000ユーロ

である。

この夫婦は、購入からすぐ(:年齢を重ねないうちに)、保有しているSCIの株式の所有権の、純所有権を子供に譲渡する。

この場合、子供が国に支払う譲渡税は、譲渡されたSCIの株式の純所有権、すなわち:

270 000 ユーロx 50%=135 000ユーロ

にかかることになる。

フランスでは、親一人あたりが子供一人につき非課税で贈与することができる枠が、15年ごとに100 000 ユーロとされているため(一般租税法799条)、この夫婦は二人で200 000ユーロまで、非課税で子供に贈与を行うことができる。

従って上の例では、譲渡されたSCIの株式の純所有権の全額が非課税枠に入るため、譲渡税の額はゼロとなる。

夫婦は90%のSCIの株式について用益権をキープしているので、SCIが持つアパートに住み続け、または賃貸に出して家賃収入を得ることができる。

この夫婦が亡くなる際には、夫婦が保有していた用益権が消滅するため、子供はSCIの株式100%について完全な所有者となる。

フランスの税法上、用益権者の死亡により用益権が消滅して純所有権者が完全所有者となる場合には、税金は一切発生しないことになっているため(一般租税法1133条)、子供は相続税を一切国に払う義務がない。

結果として、この家族は税金を一切払わずに親から子供に1 000 000ユーロの不動産資産を譲渡したことになる。

 

4) メリット3:投資能力の増加

こうした節税におけるメリットの他、SCIは、少額の出資で価値の高い物件に投資することを希望する複数の人により設立される。銀行の融資も一人の場合よりも受けやすくなるので、賃貸収入の高いいい物件を買う可能性がより高くなるというメリットがある。

 

5) SCIを設立する上での注意点

株主の会社の負債に対する責任

SCIの株主それぞれは会社の債務に対し、その出資の割合に応じて支払い責任を負う。商事会社の株主と違い、出資額に責任が制限されないので、会社がローンを返済しない場合などには、株主が個人資産から会社の債務を返済しなければならない。

会社の運営手続

SCI名義で不動産資産を所有し、管理する場合には、全ての会社と同様に決算をして税務申告する義務があり、毎年定時株主総会を開いて決算を承認する手続を取らなければならないため、会計士や株主総会の開催に必要な書類を作成する専門家の費用がかかる。

所得税と法人税の選択

SCIの所得(例えば賃貸収入) は、通常個人と同じく所得税の枠内で課税されるが、SCIの株主総会で所得税の代わりに法人税の枠内で課税されることを決めることができる。

SCIが所得税を課税されることを選択する場合には、個人の所有者と同じく、不動産資産を売却する際にかかるキャピタルゲイン税は、所有年数が多い場合に免税となりうる(6年目から減税、22年以上は免税、一般租税法150 VC条)。

SCIが法人税を課税されることを選択する場合には、所有する不動産資産を毎年減価償却し所得から会社の経営にかかった全ての費用を差し引くことができるので、課税額は所得税の場合よりも低くなるというメリットがあるが、不動産資産が毎年減価償却される結果として、不動産資産を売る場合にかかるキャピタルゲイン税の額がずっと高額となり、個人所有者に適用される免税の規定は一切適用されない。