
フランス租税法:子会社配当と租税回避行為 – 罰則が適用されないための経済的実体と組織再編成の事情
フランス一般租税法205条は、親会社が子会社から受ける配当金は原則として法人税(税率25 %、営業利益が42 500 €以下の子会社については15 %)の課税対象外となると規定している。
この受取配当金の益金不算入制度(フランスで « régime mère-fille »と呼ばれる)は、配当の原資となる子会社の利益にすでに25% または15%の率で法人税が課されているため、受取側の親会社で全額課税すると二重課税になってしまうのを防ぐことを目的としている。
受取配当金の益金不算入制度が適用される条件は一般租税法145条と216条で規定されており、以下の通りである:
– 親会社と子会社両方が法人税の課税対象であること
– 親会社が最低5%の子会社株式を保有していること
– 親会社が子会社の株式を最低2年間保有すること
この制度を利用する場合、親会社は子会社から受け取った配当金の全額を会計上は計上せずに、税務上の利益算定表(法人税申告の際に添付する別表« 2058-A »)において控除し、その後配当金額の5%を経費・費用の割合(« quote-part de frais et charges, QPFC »)として課税所得に算入する。結果として、親会社が子会社から受け取った配当金の95%について法人税が非課税となる。
このように、受取配当金の益金不算入制度は、グループ企業内におけるキャッシュフローにおいて二重課税を防止するためのものであるが、配当金の支払いに至った取引が税制上の優遇措置を受ける目的のみで行われたものであると判断される場合には、税務当局により「法律の悪用による租税回避行為」(abus de droit par fraude à la loi)として否認され、追徴課税の対象となりうる。
フランスで租税回避行為(abus de droit fiscal) は税務訴訟法(Livre des procédures fiscales, LPF)第L64条と第L64A条に規定されており、「偽装による租税回避行為」 (abus de droit par simulation) : 実際には存在しないオペレーション(スキーム)や取引を用いて税負担を軽減または回避する行為と、「法律の悪用による租税回避行為」 (abus de droit par fraude à la loi) : オペレーション(スキーム)や取引は実在するが、法律の規定を本来の目的と反する形で利用し、税負担を軽減または回避する行為の二つを区別している。
フランス裁判所の判例では、受取配当金の益金不算入制度による子会社から受け取った配当金の非課税と、同じ子会社株式の減損損失処理を組み合わせた税務スキームは、その子会社に経済的実体がない場合には「法律の悪用による租税回避行為」 にあたるという原則が確立されている。
I. フランス国務院の判例の原則:子会社に経済的実体がない場合は租税回避行為
Garnier Choiseuil 社に関する2013年7月17日判決以降、フランスの行政最高裁判所である国務院は、ある会社が経済的実体 (« substance économique »)を欠く会社 (ペーパーカンパニー、”coquille vide”と呼ばれる) の株式を取得し、受取配当金の益金不算入制度を利用して非課税の多額の配当金を受けた後、配当による子会社の株式価値低価を減損損失として計上することで親会社の税金を大幅に減らす場合には、「法律の悪用による租税回避行為」 の罰則を一律に適用する立場を取っている。
この分野で主要な国務院の判例は以下の3つである:
1. Garnier Choiseul事件 (国務院2013年7月17日判決、事件番号356523)
概要
2000年12月14日、Urab社(後日Garnier Choiseul Holdingに社名変更)は、オランダで登記されていたLepma BV社株式の50%を56,331,916フラン(8,587,745ユーロ)で取得。
2000年12月31日、Lepma BV社は親会社であるUrab社に対し56,555,459フラン(8,621,824ユーロ)の配当金を支払い、このうち95%に相当する8,190,733ユーロについてUrab社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
同時にUrab社は課税所得から子会社の資産減少による株価減少として56,172,412フラン(8,563,429ユーロ)を減損損失として計上、税務上の欠損金(繰越欠損金)としてUrab社のその後の2会計年度の黒字所得と相殺し法人税の負担を軽減。
Urab社はLepma BVの株式を2年の保有期間が満了後直ちに売却。
2. Groupement Charbonnier Montdidérien事件 (国務院2014年6月23年判決、事件番号360708)
概要
2002年12月6日、Soprinvest Immo社(後にGroupement Charbonnier Montdiderienに社名変更)は、365,000ユーロでSud Immo Service社(資産の主部がルクセンブルクの金融持株会社の社債で構成)の全株式を取得。
2002年12月20日、Sud Immo Service社はは親会社であるSoprinvest Immo社に対し、200,000ユーロの配当金を支払い、このうち95%に相当する8,190,733ユーロについてSoprinvest Immo社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
2003年11月30日、Soprinvest Immo社は、3,315,000ユーロでRemount社(資産の主部が同じルクセンブルクの金融持株会社の社債で構成)の株式の半分を取得。
2003年12月31日および2004年、Remount社は親会社であるSoprinvest Immo社に対し、3,695,272ユーロの配当金を支払い、このうち95%に相当する3,510,508ユーロについてSoprinvest Immo社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
Soprinvest Immo社は課税所得から子会社の資産減少による株価減少を減損損失として計上、繰越欠損金としてその後の3会計年度の黒字所得と相殺し法人税の負担を軽減。
3. Hellier du Verneuil 事件(国務院2024年11月29日判決、事件番号469012)
概要
2010年12月23日、Hellier du Verneuil社は、2,177,727ユーロでパリ郊外オーベルヴィリエに所在する不動産民事会社(主な資産が不動産)の全持分を取得。
2010年12月28日、Hellier du Verneuil社の子会社となった不動産民事会社はその主要資産である不動産資産を、用益権と純所有権に分割し、20年間の期限付き用益権をHellier du Verneuil社の多数派株主であるFinor不動産民事会社に2,550,000ユーロで、純所有権をオペレーションのために設立された99.9%子会社であるSC Finor-Bervilliers社に450,000ユーロで売却。
同日、Hellier du Verneuil社の子会社であるは不動産民事会社はHellier du Verneuil社に対し、1,980,000ユーロの配当前払金を支払い、このうち95%に相当する1,881,000ユーロについてHellier du Verneuil社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
Hellier du Verneuil社は課税所得から子会社の資産減少による株価減少による減損損失として2,140,000ユーロを繰越欠損金として計上。
2年間の保有期間満了から45日後、Hellier du Verneuil社は、子会社である不動産民事会社を親会社に対する全資産譲渡により解散・清算。
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これら3つの判決において国務院は、受取配当金の益金不算入制度を導入した立法者の意図が親会社が子会社の経済発展に積極的に関与することを促進してフランス経済を活性強化することであったことを指摘し、事業を停止し資産を清算したた会社を買収して、その資産を受取配当金の益金不算入制度により非課税となる配当金の形で回収し、並行して配当による子会社の株式価値低価を減損損失として計上し、子会社が事業を再開または新しい事業を開始するために必要な措置を一切取らないことはこの立法者の意図に反するため租税可否行為に当たる、と判示した。
II. EUにおける租税回避防止指令(ATAD)をフランスで国内法化した「租税回避行為の一般防止条項」
こうした租税回避スキームを防ぐために欧州連合(EU)が2016年7月12日に採択した租税回避防止指令2016/1164(通称ATAD1=Anti Tax Avoidance Directive指令1)は2018年12月28日の法律第2018-1317号によりフランスで国内法化され、一般租税法に新しく第205A条で「租税回避行為の一般防止条項」(clause anti-abus générale)が導入され、税務当局は税制上の優遇措置を得ることを主たる目的、または主たる目的の一つとして設けられた立法者の意図に反する租税回避スキームを否認し、追加課税を課すことができるようになった。
租税回避行為の一般防止条項の適用によりフランスでは2018年12月31日以降、過去5会計年度ですでに非課税の対象となった配当金について減損損失を計上することが禁止されている。
III.子会社に経済的実体がある場合に租税回避行為による追徴課税を取り消したフランス国務院の判例
一方国務院は、親会社が買収した子会社が経済的実体を維持する場合には租税回避行為は成立しないという立場をDouaisienne de transports社に関する2021年5月19日の判決で打ち出し、最近Aubépar Industries社に関する2026年2月18日の判決でその立場を確認した。
Aubépar Industries判決で国務院は、子会社配当と株式の譲渡損失を組み合わせた税務スキームでも親会社がグループ会社の組織再編の理由があったことを立証できる場合、租税回避行為による罰則は適用されないと判示している。
1. Douaisienne de transport事件 (国務院2021年5月19日判決、事件番号433201)
概要
2007年3月20日、Douaisienne de transports社は、Ségard社の全株式を取得。
決算期終了前に、Ségard社はDouaisienne de transports社に対し663,000ユーロの配当金を支払い、このうち95%に相当する629,850ユーロについてDouaisienne de transports社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
配当額はSégard社の買収価格を上回っていたが、Douaisienne de transports社は資産減少による株価減少による減損損失を不計上。
2007年8月2日、Douaisienne de transports社は、Ségard社の営業資産をDouaisienne de transports社の経営者が多数派株主であるTransalinord社に譲渡。
税務当局はこの取引を「ペーパーカンパニー」による租税回避スキームとみなし、Douaisienne de transports社の2007年度決算を修正してSégard社の配当金629,850ユーロおよび同社の資本準備金減少881,784ユーロを利益として計上し、追徴課税と罰金の支払いを命じた。
Douaisienne de transports社は、Lille行政裁判所に対し追徴課税と罰金の取消を請求したが2017年1月19日の判決により却下され、その却下判決は2019年6月4日のDouai行政控訴院の判決により確定されたため、Douaisienne de transports社は国務院に対して上告を行った。
国務院は、本件でDouaisienne de transports社の子会社であるSégard社はDouaisienne de transports社による買収時点で事業活動を継続し、そのための物的・人的資源を有していたことに鑑み、Douaisienne de transports社による受取配当金の益金不算入制度の利用は租税回避の目的のみで行われたのではないと判示し、またDouaisienne de transports社によるSégard社の営業資産の譲渡後、買主のTransalinord社が事業を拡大して雇用を創出したことに鑑み、Douaisienne de transports社によるSégard社の買収はグループ企業による事業拡大という大きな経済的利益があったとして、租税回避行為の罰則を適用したLille行政裁判所とDouai行政控訴院の判決を取り消した。
2. Aubépar Industries事件 (国務院2026年2月18日判決、事件番号500134)
概要
2010年10月12日、二人の発起人が欧州会社Aubépar Industries社をベルギーに設立。
2010年12月21日、二人の発起人は、欧州会社Aubépar社(ベルギー)の株式の98.7%をAubépar Industriesに出資。
2011年12月16日、Aubépar社は、その資産の主部であるABC Arbitrage社の株式のほぼ全てを3,780万ユーロでAubépar Industries社に売却。
2012年3月20日、Aubépar社は、Aubépar Industries社のフランス子会社に対し、3,920万ユーロの配当金をの配当金を支払い、このうち95%に相当する3,724万ユーロについてAubépar Industries社は受取配当金の益金不算入制度を利用。
同じ会計年度、Aubépar Industries社は、子会社であるAubépar社の3,900万ユーロ減損損失、及び税務上の欠損金(繰越欠損金)として3,000万ユーロを計上。
税務当局はこのオペレーションが租税回避行為にあたるとして、Aubépar Industries社の2012年度決算を修正し、非課税となったAubépar社の配当金3,724万ユーロを利益として計上し、追徴課税と罰金の支払いを命じた。
Aubépar Industries社はパリ行政裁判所に対し追徴課税と罰金の取消を請求したが2022年2月22日の判決により却下され、その却下判決は2024年10月28日のパリ行政控訴院の判決により確定されたため、Aubépar Industries社は国務院に対して上告を行った。
国務院は、審理でAubépar Industries社が提出した証拠書類の中に、2010年10月21日に同社の発起人が同社を中核とする資本関係で結ばれたグループ会社を構築し、子会社の事業分野を専門化することでその活動を合理化するという目的があったことを立証する書類があり、その中でAubépar社の事業は以後不動産管理事業に専門化されるため同社が保有するABC Arbitrage社の株式はAubépar Industries社に譲渡されることが2010年10月21日の時点で予定されていたことが記載されていたこと、そしてAubépar社はABC Arbitrage社の譲渡後も約1,100万ユーロ相当の固定資産を保有して不動産管理事業を継続し、大幅な黒字を計上していたことを指摘し、これらのオペレーションは租税回避の目的のみで行われたのではなく、組織再編成の目的があると判示し、租税回避行為の罰則を適用したパリ行政裁判所とパリ行政控訴院の判決を取り消した。