財産法・国際相続

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SCIの株主は最低二人である必要があります。
株主は、まず会社の定款を弁護士に依頼して作成します。会社の資本金には最低額はなく、株主は金銭出資、現物出資どちらも行うことができますが、株主の一人が不動産を現物出資する場合には、公証人が公正証書の形で定款を作成して、登記所に提出することが必要です。
株主はそれぞれの出資額に応じた数の株をSCIに持ちます。
株主は定款に署名をした後、会社のの名義で開かれ、設立登記が終わるまでブロックされている銀行口座に出資金を振り込みます。
SCIの社長は弁護士を通じて法定公示誌 にSCIの設立を公示し、会社の所在地を管轄する商事裁判所の書記課に、署名された定款の原本1部を、« formulaire M0 »と呼ばれる会社設立の手続フォーム、社長の任命書、無犯罪証明書、会社所在地の証明書等の必要書類と共に提出します。提出された書類に問題がなければ、商事裁判所の書記課から登記事項証明書(K-Bis)が発行されます。
2人以上の人が共同して不動産を購入し、一緒に管理をする共有名義の所有と違い、SCIでは定款または株主総会で任命される社長が不動産の管理を行います。
SCIの社長の権限の範囲は定款で定められますが、原則的にSCIの社長は、不動産の購入と管理のために必要な手続をSCIの名前で行うための幅広い権限を持ち、定款で例外的に株主の事前の決定を必要とすると定められている重要事項(例えば不動産の売買や抵当権の設置、会社の名前での借金など) 以外は、自らの判断でSCIの管理に必要な契約を結ぶことができます。
株主の決定は株主総会で行われるため、定款で規定された株主総会の定足数と議決権数がSCIの社長の権限の範囲を判断する上で重要となります。
例えば不動産の売却などの重要事項について株主総会の議決権数が半数以上と規定されていれば、SCIの株式総数の半数以上を有する株主が社長の場合、社長が不動産の処分を一人で決めることができることになります 。
共有名義の所有では各所有者が不動産資産について同等の権利を持つため、資産管理に関する決定、特に資産の売却は、共同所有者全員の合意が必要となり、共有者間の中が悪くなる場合には問題となりますが、SCI名義での不動産保有は、定款を丁寧に作成してSCIにおける決定権の所在をはっきりさせておけば、こうした問題が生じないという点でメリットがあります。
SCI familiale は、同じ家族のメンバーが株主となる不動産民事会社で、祖父母、父母、子供達が会社の名前で不動産を購入してその管理を行います。
通常親から子供に不動産資産を贈与する(名義変更をする)場合には、フランスでは公証人に依頼して公正証書の贈与契約を交わさなければなりませんが。この場合不動産の所有権が親から子供に移転し、子供は贈与された不動産資産の価値に応じた贈与税を国に、手続費用を公証人に支払う義務があります。
一方SCI familialeを親と子供の間で設立する場合には、不動産資産の所有権は会社にあるので、株主の親と子供は不動産の贈与ではなく、SCIの株式の譲渡をすることになります。このSCIの株式譲渡は以下の点で、通常の不動産資産譲渡よりもメリットがあります:
- SCIの株式譲渡では当事者達が自ら、または弁護士に依頼して譲渡契約書の作成を行うことができ、公証人のもとで公正証書を交わす必要はないため契約書の作成にかかるコストが低くなる。
- 譲渡税の額は、不動産資産の価値自体でなく、SCIの株の価値をベースに計算されるため、SCIに負債、例えばローンを組んで不動産を購入した場合のローン残債がある場合には、SCIの資産の価値から負債額を引いた額が譲渡税計算のベースとなります。従って支払う譲渡税の額も不動産資産自体を譲渡する場合よりも低くなります。
フランス民法上、「所有権の分割」とは、所有権を、資産を所有する権利(純所有権、« nue-propriété »)と資産を使用してそこから利益を得る権利(用益権、 « usufruit »)に分けることを指します。
純所有権を持つ者は純所有権者(« nue-propriétaire »), 用益権を持つ者は用益権者(« usufruitier »)と呼ばれますが、ある資産の所有権が純所有権と用益権に分割されて、その後用益権がなくなる場合(:例えば用益権者が死亡する場合)には、資産の完全な所有権が純所有権者に帰属することになります。
SCI familialeの株式の所有権の分割では、SCIの株主である親と子供が、それぞれ持つ株の所有権を純所有権と用益権に分割し、親がSCI株の用益権をキープしたまま、純所有権を子供に譲渡します。
フランスの税法上、用益権と純所有権の割合は、用益権を持つ者の年齢により定められていますが(一般租税法669条)、譲渡税の計算のベースはは親が子供に譲渡する純所有権から住宅ローン等のSCIの負債を引いた額となり、所有権の分割をしないで親から子供に全所有権を譲渡する場合よりも税額がはるかに低くなります。
フランスの税法上、用益権と純所有権の割合は、用益権を持つ者の年齢により定められています(一般租税法669条):
用益権者の年齢 | 用益権の割合 |
純所有権の割合 |
21 歳まで | 90 % | 10 % |
31 歳まで | 80 % | 20 % |
41 歳まで | 70 % | 30 % |
51 歳まで | 60 % | 40 % |
61 歳まで | 50 % | 50 % |
71 歳まで | 40 % | 60 % |
81 歳まで | 30 % | 70 % |
91 歳まで | 20 % | 80 % |
91歳以上 | 10 % | 90 % |
例えば60歳の夫婦が子供と9対1の持株数の割合でSCIを設立して、1 000 000ユーロのアパートを700 000ユーロのローンを組んで購入する場合、夫婦が持つSCI株の価値は
(アパートの価値1 000 000ユーロ-ローン残債700 000ユーロ) x 90% = 270 000 ユーロ
一方子供が持つSCI株の価値は
(アパートの価値1 000 000ユーロ-ローン残債700 000ユーロ) x 10% = 30 000ユーロ
となります。
この夫婦が購入からすぐ(:年齢を重ねないうちに)、保有しているSCIの株式の所有権の、純所有権を子供に譲渡した場合、子供が国に支払う譲渡税は、譲渡されたSCIの株式の純所有権、すなわち:
270 000 ユーロx 50%=135 000ユーロ
にかかることになります。
フランスでは、親一人あたりが子供一人につき非課税で贈与することができる枠が、15年ごとに100 000 ユーロとされているため(一般租税法799条)、この夫婦は二人で200 000ユーロまで、非課税で子供に贈与を行うことができます。
従って上の例では、譲渡されたSCIの株式の純所有権の全額が非課税枠に入るため、譲渡税の額はゼロとなります。
夫婦は90%のSCIの株式について用益権をキープしているので、SCIが持つアパートに住み続け、または賃貸に出して家賃収入を得ることができます。
この夫婦が亡くなる際には、夫婦が保有していた用益権が消滅するため、子供はSCIの株式100%について完全な所有者となりますが、フランスの税法上、用益権者の死亡により用益権が消滅して純所有権者が完全所有者となる場合には、税金は一切発生しないことになっているため(一般租税法1133条)、子供は相続税を一切国に払う義務がありません。
結果として、この家族は税金を一切払わずに親から子供に1 000 000ユーロの不動産資産を譲渡したことになります。
「共有名義」(indivision)とは、2人以上の人が共同して一つの資産(不動産、動産)を購入し、共同所有者となる所有形態です。各所有者はそれぞれの出資額に応じたパーセンテージで所有権を有します。
共同購入のメリットは、複雑な手続が一切必要なく、資産の共同購入を希望する購入者はそれぞれが持ち分の割合を決めるだけで足りることにあります。同棲中のカップルやPACSのパートナーが住居を共同出資して購入する場合、共有名義による購入方法(例えば持分50%/50%、70%/30%など)がよく取られます。
共有名義で不動産を所有する場合、不動産の処分行為、特に共有名義の不動産の売却においては、持分のパーセンテージに関わらず共有者全員の合意が必要となります。持分が多い共有者が単独で不動産売却を決定することはできません。
不動産の管理行為、または賃貸借契約(農業、商業、産業的な賃貸借契約を除く)については、フランス民法815-3条で、持分の3分の2を有する共有者が決定できると定められています。逆にいうと、二人の共有者が50 %/50 %の持分で不動産資産を所有している場合には、どちらの共有者も一人で共有アパートのリノベーション工事や賃貸借を決めることができないことになります。
また不動産を共有名義で共同購入することの一番のデメリットは、共有者の一人が共有資産を手放したいが、他方の共有者が資産の売却や分割手続に応じない場合には、裁判所に提訴する必要があることです。この手続は共有物の分割(財産分与)請求訴訟と呼ばれ、裁判所によっては数年かかることがあります。
共有者の一人が共有者全ての利益を反した行動を取る場合(例えばアパートの管理費や住宅ローンの負担分を払わずに債務がかさみ、管理会社や銀行といった債権者から不動産を差し押さえられるなど)には、その他の共有者は地方裁判所の裁判長のもとで「急速本案審理手続」(procédure accélérée au fond、民事訴訟法481-1条)と呼ばれる訴訟を提起して、問題の共有者の合意なしに共有資産を処分する許可を申請することができます(民法815-5条)。申請が認められるためには共有資産を処分することが緊急に必要であること、そしてその処分が共有者全ての利益に適っていることを証明する必要があります。
1978年3月14日のハーグ条約第4条(1992年9月1日から2019年1月28日までに婚姻した配偶者の場合)および2016年6月24日の理事会規則(婚姻財産制度)2016/1103第26条(2019年1月29日以降に婚姻した夫婦の場合)は、夫婦が婚姻財産制度に適用する法を選択しない限り、原則として、婚姻後の最初の共通の常居所地国の法が夫婦財産制に適用されると規定しています。夫婦が結婚後数年間海外に居住していたが、フランスに常居所を設ける意向であった場合には、夫婦財産制にはフランス法が適用されます。
夫婦の常居所の判定は裁判官の裁量に委ねられており、裁判官は夫婦の資産の所在地、特に不動産の購入など、いくつかの基準に基づいて準拠法を決定します。
夫婦財産制の清算は、夫婦が選択した財産制度に定められた規則に従って、婚姻中に取得した共有財産と債務を離婚の際に分割する手続です。
協議離婚の場合、夫婦財産制の清算は協議離婚の手続中に行う必要があります。夫婦は共有財産をどのように分割するかについて合意する必要があり、合意がない場合には協議離婚は成立しません。
夫婦財産制の清算の条件は離婚協議書に明記されます。夫婦名義の不動産資産がある場合、夫婦財産制の清算手続は必ず公証人のもとで行う必要があります。この場合、公証人は公正証書による分割証書を作成し、協議離婚書に添付されます。夫婦は、最長5年間、共有財産を維持するための共有所有権契約を締結することもできます。
分割条件について合意できない場合、一方の配偶者は、他方の配偶者を家庭裁判所の裁判官に召喚し、離婚を申し立てなければなりません。召喚状において、原告配偶者側の弁護士は訴状の中で財産分割案を明記します。
特有資産の補償(récompense)とは、共有資産の清算手続で、夫婦の一方がその特有資産を夫婦の共有資産の購入に充てた場合、または逆に夫婦の共有資産から夫婦の一方名義の資産の購入を行った場合に、出資額を取り戻して清算する手続を指します(民法第1433条)。
フランス民法214条では、夫婦の結婚生活で必要になる費用は夫婦それぞれがその支払能力に応じて支払う義務があると規定されています。ローンで返済した額が支払能力を超えていたことを証明しない限り、返済分は離婚時に取り戻すことはできません(破棄院第一院、2018年4月11日判決、上告番号17-17457)。
共有制の場合には結婚中に得た給与や報酬は共有財産となるので、そこから支払ったローンの返済は取り戻せません。
国際私法の原則では、被相続人が死亡時に常居所(résidence habituelle )を有していた国の法律が準拠法となると定められています (相続における裁判管轄、準拠法、裁判の承認及び執行、公文書の受領及び執行、欧州相続証明書の創設に関する2012年7月4日の欧州議会・理事会規則650/2012号 (通称「EU相続規則」)、第21条)。
遺留分とは、法律で保護された法定相続人(子供、配偶者)に最低限保証された遺産取得分を指します。生前贈与、死因贈与は遺留分を超えて行うことはできません。
フランス法で遺留分の割合は民法913条で以下のように定められています:
- 子供が1人:遺産の半分
- 子供が2人:遺産の3分の2
- 子供が3人以上:遺産の4分の3。
子供がいない場合には残された配偶者が遺産の4分の1について遺留分があります。
故人が独身で子供がいない場合には遺留分はなく、遺書がない場合には個人の親と兄弟が相続人となります。
フランスでは、生命保険での資産形成がよく利用されます。フランス法では保険金は遺留分の対象にはなりません (フランス保険法L 132-13条)。
フランスではまた、残された配偶者の相続分を多くするために夫婦財産制を完全共有制 (communauté universelle)に変えることができます。
夫婦財産制の変更手続は公証人のもとで行いますが、公正証書に「死亡配偶者の全資産は生存配偶者に帰属する」という条項を加えます。この場合、生存配偶者が亡くなるまで子供は遺産を相続しません。
亡くなられた後、子供達が、父親の常住地がフランスであったとして、相続にフランス法を適用し(規則650/2012号第4条)、遺留分に当たる遺産を取り戻すための訴訟(「遺留分減殺訴訟」)を提起する可能性があります。
ニューヨークで作成された遺書により財産受贈者となった妻が、フランス裁判所で子供達の請求を却下させるためには、夫の常住地がニューヨークであったことを証明する必要があります。フランス裁判所は、故人の生活状況を亡くなる数年前に遡って審査し、特に遺書が作成された国に滞在した期間、主要な資産がどの国にあるか、その国で職業を営んでいたか否か、などの事情から、故人の常住地がどの国であるかを判断します(破棄院第一院、2019年5月29日判決、上告番号18-13383)。
フランス最高裁の判例では、遺留分に関する民法の規定は「国際私法上の強行法規」ではないとされています(破棄院第一院、2017年9月27日判決、上告番号16-13151、16-17198)。
すなわち、フランス法で定められている遺留分の規定がない外国の法律も、相続で適用されることが認められています。
本件で故人の常住地がニューヨークであったと判断される場合には、フランス裁判所は管轄権を否定し、子供達の請求を却下します。
逆に裁判所が故人の常住地がフランスであったと判断する場合には、フランス裁判所は相続手続にフランス法を適用するため、4人の子供は75%の遺留分を与えられ、妻はその残り25% のみ受贈者となることができます(ナンテール大審裁判所2019年5月28日決定)。
EU相続規則650/2012号では、第12条で、「全ての人は国籍を有する国の法律を相続の適用法として選定することができる」と規定しています。
日本人はフランスで、日本法を自分の相続の適用法とする宣言書を作成することができます。この宣言書があれば、たとえフランスが常住地だったとしても、相続手続にはフランス法ではなく日本法が適用されます。
日本法では子供の遺留分は、生存配偶者がいる場合には、子供の数に関わらず25%なので(日本民法1028条)、全資産の75%まで妻に死後贈与させる遺書を作成することが可能です。
例えば子供が4人いる場合には、25%の遺留分を4人で分ける(=一人6,25%ずつ相続する)ことになります。