会社更生手続における永久劣後債権者の権利

(破棄院商事部、2012年2月21日、上告番号n° 11-11693)

永久劣後債(titres super-subordonnés、TSS)とは、会社が解散するときまで弁済義務が生じず、また全ての債権者への弁済が終わった後に元利金の弁済が行われる社債である。弁済順位が低いため、利率は一般の社債よりも高く設置されているが、利息の支払は会社が利益を上げて株主に配当を行うときにのみ行われる。フランスにおいて永久劣後債の発行は、2003年8月1日の金融制度の安全化に関する法律(loi de sécurité financière, loi LSF)で株式会社に認められた。

2009年9月にはじまったトムソン・マルチメディア社の会社更生手続では、更生計画批准においてフランスではじめてアメリカのプレパッケージドチャプターイレブンに近い方法が取られたが、そこでは永久劣後債権者の投票権が問題となった。

トムソン・マルチメディア社(Thomson Multimédia SA、1983年に創設、1982年‐1998年国営、2010年にテクニカラー(Technicolor)社に改名)は、かつて家電やメディア、とくにテレビ受像機の製造で世界第4の地位を誇る大企業であったが、2000年以降テレビ放送のデジタル化に伴う関連産業の買収・合併戦略が行きすぎて債務が大幅に拡大し、2009年には21億ユーロ(約2040億円)の負債を抱えて倒産寸前の状態となった。

フランスの会社更生手続では、手続が開始したあと管財人によって、金融機関債権者委員会(comité des établissement de crédit)と取引先債権者委員会(comité des principaux fournisseurs de biens ou de services)の2つの更生債権者委員会が設置され、この更生債権者委員会で債務者会社が準備する更正計画が批准された後、社債権者集会(assemblée générale des obligataires)の決議にかけられる。

2009年9月30日に開始したトムソン・マルチメディア社の会社更生手続においては、手続を短期化し、会社の再建を速めて支払停止を避けるため、手続申請以前に大部分の債権者と債務者会社との私的な交渉により立案された更生計画を、手続開始後短期で債権者に批准させ、裁判所の認可を受けるという戦略が取られた。

トムソン・マルチメディア社は2003年9月に、当時の買収・合併戦略で必要な資本を調達するために、5億ユーロの永久劣後債を発行していたが、同社の更正計画では永久劣後債に関して、利息を2500万ユーロに制限して債権者に弁済することが定められていたため、永久劣後債権者全員がこの更生計画の批准に反対していた。

フランス商法L626-32条は社債権者集会では、各社債の性質によって社債権者の発言権を区別することができると規定している(2項)が、各社債債権者 はその有する債権額に応じた投票権を持ち、その3分の2の多数で社債権者集会の決議が批准されると規定している(3項)。トムソン・マルチメディア社の社債権者集会で更正管財人は、このL626-32条2項の規定を投票権の算定に拡大して解釈し、永久劣後債権者の投票権を、元利金の額(5億ユーロ)ではなく、更生計画で支払いが予定されている利息の額(2500万ユーロ、すなわち元利金の5%)に基づいて算定し、その結果、更生計画は98,77%の多数で社債権者集会により批准された。

2009年12月31日、永久劣後債権者は社債権者集会における決議手続が違法であるとして、更生計画の取消を求める訴訟をナンテール商事裁判所に提起した。

ナンテール商事裁判所は2010年2月27日の判決で、永久劣後債は会社が解散するときまで弁済義務が生じず、また全ての債権者への弁済が終わった後に元利金の弁済が行われる社債であるので、更正手続において社債権者集会で他の債権者よりも少ない投票権を与えることは合法であるとして、永久劣後債権者の訴えを退け、更生計画を認可した。

永久劣後債権者の控訴を受けたベルサイユ控訴裁判所はこれに対し、2010年11月18日、社債権者集会における永久劣後債権者の投票権の算定方法は商法L626-32条の規定に反することを認めた。しかしその一方で、実際に永久劣後債権者の投票権がその元利金額(5億ユーロ)に応じて与えられていた場合にそれが更生計画の決議に影響を与えたかどうかを審査し、本件ではこの場合、社債権者集会における永久劣後債権者以外の社債権者の票数は全体の82,8%に及び、決議要件である3分の2を満たしたことには変わりがないから、更生計画の取消は必要ないとして、更生計画を認可する判決を下した。

永久劣後債権者は破棄院に対して破棄上告を行い、再度、社債権者集会における決議手続が違法であるため更生計画は取り消されるべきであること、そして仮に更生計画が有効であるとしても、永久劣後債権は会社が解散するときまで弁済義務が生じない債権であるので手続開始以前に生じた債権ではなく、従って更生計画の適用を受けないと主張した。

破棄院商事部は2012年2月21日の判決で、永久劣後債の弁済義務は弁済日ではなく永久劣後債の契約日に生じており、更正手続開始以前に生じた債権であるから更生計画に組み込まれるべきであること、そして控訴審が審査した通り、たとえ社債権者集会で正しく永久劣後債権者に投票権が与えられていたとしても社債権者集会が更生計画を批准したことには変わりがないのであれば、更生計画の取消は必要ないと判示して、永久劣後債権者の上告を棄却し控訴審判決を確定させた。

トムソン・マルチメディア社の会社更生手続開始においてアメリカのプレパッケージドチャプターイレブンに倣って取り入れられた、こうした裁判所外での大部分の債権者との交渉によって作成された更正計画を更正手続が始まってから即時に裁判所に認可させる手続は、2010年10月22日の銀行と金融機関の規制に関する法律(loi de régulation bancaire et financière)で、金融機関に適用される急速更正手続(sauvegarde financière accélérée)として法制度化されている。

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