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従業員の重過失:使用者が解雇手続に迅速に着手する義務

破棄院労働部、2022年3月9日判決、上告番号20-20.872、AXA c. Mme Y

フランスで従業員を懲戒解雇する場合、理由とする従業員の過失には以下3つのタイプがある:

– 単純な過失(faute simple):解雇を正当化する過失であるが、従業員を即時に辞めさせるほど重大な過失でない場合
– 重大な過失(faute grave):従業員を即時に辞めさせるほど重大な過失
– 意図的な重過失(faute lourde) :従業員を即時に辞めさせるほど重大な過失で、従業員に使用者を害する意図が認められる場合。

従業員の過失が単純な過失に相当する場合には、使用者は解雇の予告期間を守って解雇手続を行わなければならない。労働法上の解雇の予告期間は従業員の勤務期間が6か月以上2年未満の場合には1か月、2年以上の場合には2か月であり(労働法L1234-1条)、雇用契約や労働協約にそれよりも長い予告期間が定められている場合には、そちらが適用される。予告期間中従業員が勤務を免除される場合には予告期間中の給与(「予告期間代替補償金」)、予告期間終了後は解雇補償金が使用者から従業員に支払われる。

一方従業員の過失が重過失や意図的な重過失に相当する場合には、使用者は解雇の予告期間を守って解雇手続を行う義務を免除される。従業員の重過失や意図的な重過失の場合には多くの場合、一時的な出勤禁止(mis à pied à titre conservatoire)が命じられ、その間に使用者は過失従業員の解雇手続を準備する。従業員は予告期間代替補償金も、解雇補償金も支払いを受けることができない。

重過失はフランス裁判所の判例で「従業員が職場で勤務を続けることを不可能にするほど重大な過失」と定義されており、従業員が使用者や他の従業員に暴力行為や嫌がらせ行為を行う場合や、酩酊状態で職場にいる場合、使用者の指示に一切従わない場合や無断で欠席を数日行った場合などが重過失にあたると判示されている。

重過失による解雇では解雇される従業員は解雇補償金と予告期間代替補償金の支払いを受けることができないため、判例では重過失で従業員を解雇する使用者は、当該従業員の重過失を知ってから遅滞なく解雇手続を行わなければいけないというルールを打ち出している。

実際に使用者が従業員の重過失を知ってから何日の期間で解雇手続を始めれば正当な重過失による解雇として認められるかについては、破棄院の判例では下級審裁判所がケースバイケースで決めるものとされており(破棄院労働部、2005年10月25日、上告番号03-10125、2016年10月12日、上告番号15-20.413)、使用者が従業員の重過失を知ってから3週間おいてから解雇手続を始めたケースで、遅すぎるとして使用者に解雇された従業員に対する解雇補償金と予告期間代替補償金の支払いを命じた判例もある(破棄院労働部、2012年10月23日、上告番号11-23861)。

本件では使用者が従業員の重過失を知ってから1か月近くも解雇手続を行わなかったケースで、重過失による解雇が正当か否かについて判示したケースである。

AXA保険で営業の幹部職員として勤務していたY氏は、顧客であった老人に、自分と自分の子供を保険金受取人とする契約を交わさせ、101 100ユーロを横領したため、AXA保険から重過失で解雇された。Y氏は使用者が自分の過失を知ってから短期間で解雇手続を行わなかったため、重過失による解雇は認められず、予告期間代替補償金と解雇補償金を支払う義務があるとして労働審判所に訴えた。

第一審、控訴審共にY氏の請求を退けたため、Y氏は上告を行ったが、破棄院は本件で使用者がY氏の重過失について報告を受けた時期、Y氏は労働停止で欠勤していたため、使用者が4週間後にY氏の解雇手続を始めたことはそれ自体Y氏の過失の重大さを軽くするものではないとして、上告を却下した。

 

判例解説