商事賃貸借契約における家主の管理費清算義務

(破棄院第3院, 2014年11月5日 n°13-24451, Sté Samrif c/ Sté Kamez)

家主が負担する管理費と借主が負担する管理費が法律と政令で明確に定義されている住宅賃貸借契約(1989年7月6日法23条、1987年8月26日政令)と異なり、商事賃貸借契約においては法律で家主、借主それぞれの管理費の負担分が規定されていない。

本来固定資産税、建物の安全に関する保険や管理会社の報酬などの所有者が負担すべき税金や管理費は家主が負担する義務があるが、商事賃貸借契約では契約書で自由にこうした管理費や税金を家主に代わって支払うことを義務づける条項を設けることが可能であり、特に大都市で金融機関が大通りやショッピングモールなどの店舗で家主となっている場合には、借主がほとんどの管理費や税金を支払う条項が契約書に規定されていることが多い。

しかしながら家主は借主から不当に管理費や税金を徴収することはできず、契約書に諸管理費や税金を借主の負担とする条項が規定されている場合には、家主は契約書に定められた方法で管理費を清算して実際に自分が支払った管理費や税金と照らして借主が四半期ごとに前金 (provision de charges)として支払った管理費の額が正当であることを証明しなければならない。家主が管理費の清算を行わない場合や実際に自分が支払った管理費や税金の証明をしない場合には、借主は家主に対して支払った管理費前金の返還を請求することができる。

本件は、ショッピングモール内の一画を2000年9月からSamrif社から借りてレストランを経営していたKamez社が、水道管と換気口から悪臭が流れたことがレストランの経営難につながったと主張して家賃の支払を停止し、家主の過失による賃貸借契約の解除を請求していた事件で、家主であるSamrif社がKamez社が滞納していた数年分の家賃と管理費の支払とKamez社の強制退去を反訴請求していた事件であるが、2013年7月10日の判決でパリ控訴院は、Samrif社が契約書に定められた方法で管理費を精算していず、Kamez社が提出を請求した管理費の証明を行わなかったことに鑑み、2001年以降Kamez社がSamrif社に対して支払った管理費の前金額(51.200ユーロ)を2010年までの滞納家賃(99.632,66ユーロ)から差し引いた上で、差額の48.432,66 euroの支払をKamez社に、Kamez社が受けた損害額30.500 euroの支払をSamrif社にそれぞれ命じ、両当事者の債権債務の相殺が可能であると判示した。

Samrif社は、契約書で管理費の証明義務が規定されていない以上裁判所はSamrif社が実際に支払った管理費に鑑みてKamez社が支払った管理費の前金額を判断すべきであると主張したが、破棄院は2014年11月5日の判決で、家主であるSamrif社が管理費の精算義務を怠り、管理費の証明を行わなかった以上、Kamez社からの管理費前金の徴収は不当利得を構成すると判断し、Samrif社は実際に支払った管理費や税金額に関わらず徴収した管理費前金全額を返還する義務があるとして、控訴審の判決を確定させた。

本判決は管理費の清算を厳密に行わない家主が多い商事賃貸借契約で、家主の管理費清算義務違反を厳しく扱った点で重要であるが、商事賃貸借契約の管理費清算義務は2014618日のPINELで強化された。同法では2014年11月5日以降に締結または更新される全ての商事賃貸借契約に、契約対象の物件にかかる全ての管理費と税金、手数料及びそれぞれの管理費と税金、手数料が家主、借主いずれの負担であるかを明記した明細書を添付することを義務づけ、家主は個別の商業物件では毎年9月30日、集合住宅内にある商業物件では総会で管理費額が決定されてから3ヶ月以内に管理費の清算書を借主に送付しなければならず、また借主が希望する場合には清算された管理費、税金、手数料を証明する全ての書類を提出しなければならないと規定した(商法L 145-40-2条、R 145-36条)。
また同法ではそれまで契約書中の条項で借主に負担させることが認められていた一部の管理費や税金を借主に負担させることが禁止され、商法R 145-35条でそうした管理費や税金が細かく定義されている。

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