
フランス法における瑕疵担保責任、製造物責任、契約不適合責任:成立要件と立証義務
買ったばかりの車が故障して動かない、携帯電話のバッテリーが発火した、フルリフォーム済みマンションで入居後に水漏れが発覚した… こうした商品や製品の欠陥で損害を受けた場合、誰に対してどのような賠償責任を追及することができるかを知るためには、瑕疵担保責任、契約不適合責任、製造物責任それぞれの成立要件と効果を理解することが有用となる。
日本では2020年4月の民法改正により瑕疵担保責任が契約不適合責任と改称されたが、フランスでは特別法定責任である瑕疵担保責任と契約不履行の一般規定に基づく契約不適合責任は全く別の法制度である。
「特別法は一般法に優先する」原則の適用
フランス民法1641条以下で規定されている瑕疵担保責任と、民法1245条以下で規定されている製造物責任は、法的根拠と適用範囲が異なるが、商品・製品の隠れた瑕疵が安全性の欠如に当たる場合には、原告が一つの訴訟手続で両方の責任を根拠として売主(製造物責任を負う製造者に含まれるサプライヤーや輸入業者)に対して賠償を請求することが可能である。
一方、「特別法は一般法に優先する」というラテン法の大原則に従い、欠陥が瑕疵担保責任と契約不適合責任両方の成立要件を満たす場合には、買主は瑕疵担保責任のみを根拠として売主に対して訴訟を提起しなければならず、契約不適合責任を根拠として訴訟を提起した場合には請求は認められない。裁判所は原告が契約不適合であるとして賠償を求めている目的物の欠陥が、瑕疵担保責任が適用される欠陥であると判断する場合には、請求を却下する(破棄院商事部第3院、2023年1月18日判決、上告番号n°21-22.543(シロアリ被害による建物の主要な骨組みの損壊に関する案件)=>後述)。
瑕疵担保責任、製造物責任、契約不適合責任それぞれの成立要件と効果は以下の通りである:
| 瑕疵担保責任 | 製造物責任 | 契約不適合責任 | |
| 法律根拠 | 民法第1641 条以下 | 民法 1245 条以下(EU指令 85/374) | 民法第1604 条以下 |
| 欠陥・損害の性質 | 商品に内在し隠された欠陥で、その用途を満たさなくする欠陥 | 製造物の安全性の欠如 | 契約で定められた目的物と引き渡された物との不適合
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| 責任を負う者 | 売主 | 製造業者、輸入業者、サプライヤー | 売主 |
| 責任の性質 | 特別法定責任(過失の立証義務なし) | 特別法定責任(過失の立証義務なし) | 契約不履行(過失の立証義務あり) |
| 責任が成立する場合に請求が可能となる賠償 | 代金の一部または全額返還
売主が瑕疵を知っていた場合(売主が業者の場合を含む)には受けた全ての損害の賠償 (民法第1645条) |
身体的損害:受けた損害全額の賠償
物質的損害:欠陥商品以外に対する損害は500ユーロ以上の損害の賠償
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受けた全ての損害の賠償 (民法第1231-1条) |
目的物が契約内容に適合しない場合には契約不適合責任が成立し、一方目的物がその用途を満たさなくなる場合には瑕疵担保責任の適用範囲となる。売主に対する訴訟が消滅時効にかかって非受理となることを避けるためには、時効が比較的短い瑕疵担保責任が適用される欠陥と、民法の契約不履行責任が適用される契約不適合との区別を理解することが必要である。
1. 瑕疵担保責任
立証義務
売主に対して瑕疵担保責任を追及するためには、買主は商品の欠陥が (i) 購入時に買主が知り得なかった(ii) 商品に内在する瑕疵で (iii) 重大であり (iv) 商品の購入時に存在した (v) 商品をその用途に見たさなくする瑕疵であることを証明する義務がある。
時効期間
売主に対する瑕疵担保責任追及訴訟は、買主が瑕疵を見つけてから2年以内、遅くとも購入日から20年以内に提起しなければならない(民法1648条)。
上述したように、欠陥が瑕疵担保責任と契約不適合責任両方の成立要件を満たす場合には、買主は瑕疵担保責任のみを根拠として瑕疵を見つけてから2年以内に売主に対して訴訟を提起しなければならず、2年の時効が経過してから5年の時効にかかる契約不適合責任を根拠として訴訟を提起することはできない(破棄院第1院、1993年10月27日判決、上告番号第91-21.416 (電気温水器の欠陥)、破棄院第3院、1996年2月14日、上告番号第93-21.773 (歩道の縁石の欠陥))。
司法鑑定が行われる場合の時効の起算点(破棄院第1院2024年9月25日判決、上告番号第23-11.482、Toyota c. Mme X)
瑕疵に高度の技術性がある場合には、民事訴訟法145条のレフェレの手続で、司法鑑定(鑑定レフェレ、 « référé-provision »と呼ばれる)を地方裁判所の裁判所長の下で請求する。原告である買主の訴状を執行官が被告である売主に通達した日から、2年の時効が停止する。
トヨタ車が被告となった瑕疵担保責任追及訴訟において、破棄院は2024年9月25日の判決で、時効は鑑定書を鑑定人が裁判所に提出した日から起算されると判示した。
本件では、2014年に購入したトヨタの車のトラブルを理由に瑕疵担保責任を追及することにした買主が、本案訴訟に先立って司法鑑定を地方裁判所の裁判所長の下で請求したところ、鑑定人が車の故障の理由は2011年2月にトヨタ社がデイ―ラーに売ったモビリティパーツが原因だと結論する鑑定報告書を2016年11月に裁判所に提出した。
買主が2017年11月に提起した本案訴訟で被告となったトヨタ社は、瑕疵の原因は2011年2月にトヨタ社がデイ―ラーに売ったモビリティパーツであるので、「5年」(*2年の間違い)の時効は2016年2月に経過しており、買主の請求は非受理であると主張したが、破棄院は民法1648条で規定された2年の時効は鑑定報告書の提出日から起算されるとして、トヨタ車の請求を退けた控訴院の判決を確定させた。
不動産の購入における瑕疵担保責任の案件でも司法鑑定は頻繁に行われ、2年の時効は鑑定報告書の提出日から起算されるという原則が適用されている(破棄院第3院、2026年1月8日判決、上告番号第24-12.714)。
効果
瑕疵担保責任が成立する場合、買主は契約の解除または代金の減額を請求することができる。
また売主が商品の欠陥を認識していた場合、買主は損害賠償も合わせて請求することができる(民法第1645条)。売主が事業者の場合には商品の欠陥を認識していたことが完全に推定されるものとされており、欠陥を知らなかった事実を証明したり、免責特約を引き合いに出して買主に対する損害賠償責任を免れることができない。従って、事業者売主に対しては常に瑕疵担保責任訴訟で損害賠償の請求を行うことができる。この場合に適用される時効期間は、損害賠償を行わない瑕疵担保責任訴訟と同じく民法1648条の2年である(破棄院第3部、2026年2月19日判決、上告番号23-22.295)。
営業権売買における瑕疵担保責任
営業権(営業資産)売買において、売主の瑕疵担保責任が成立するのは、店舗やレストランの設備や店舗のある建物が安全基準に適合していない場合(破棄院商事部、1991年10月8日判決、上告番号89-17.533、1995年2月7日判決、上告番号93-12.940)である。
一方、契約中に記載された売主の売上高に関する情報に偽りがあった場合には、物件の用途を満たさなくする瑕疵には当たらないため、売主の瑕疵担保責任は成立しない(破棄院商事部、2017年1月11日判決、上告番号15-22.382)。
営業権譲渡契約中の情報に偽りがあった場合には、買主は商法L141-3条の規定に基づいて物件の引渡しを受けた日から1年以内に売主に対し、契約の解除または代金の減額を請求することができ、また売主が情報が偽りであることを知っていた場合には、受けた損害の賠償も合わせて請求することができる。
2. 製造物責任
商品に内在する欠陥を補償対象とする瑕疵担保責任とは異なり、製造物責任は、製品が通常有すべき安全性を欠いている場合に適用される。
フランスで現行の製造物責任に関する制度(民法第1245条以下)は、1985年7月25日の「製造物責任に関する加盟国の法制度の統一に関する指令(85/374/CEE)」を国内法化した1998年5月19法で規定されたものである。
1985年の製造物責任指令は、2024年10月23日の欧州議会および理事会による新製造物責任指令2024/2853で改正され、フランスでは2026年12月9日までに同指令が国内法化される予定となっている。
立証責任
製造者に対して製造物責任を追及するためには、欠陥製品の被害者は (i) 受けた損害(ii) 製品の欠陥、及び(iii) 損害と欠陥の間の因果関係を証明する義務がある (民法第 1245-8 条)。
民法1792条以下で規定される建設業者の特別責任(=>記事を読む)と同様、被害者が上記の要素を証明して製造物責任が成立する場合には、製造者は過失の有無にかかわりなく当然に被害者に対して賠償責任を負う。
製造物が通常有すべき安全性の欠如という概念に関して、民法第1245-3条は、「製造物が通常有すべき安全性を評価するにあたっては、あらゆる事情、特に(注意)表示、通常予見される使用方法、および流通(販売)開始の時期を考慮に入れなければならない」と規定している。
2024年のEU指令は安全性欠如の評価基準を拡大し、製品の学習継続能力、新しい機能を獲得する能力(特に人工知能(AI)やソフトウェアにおける機能・安全性の欠如の判断評価における基準となる)や、 製品と併用される他の製品が当該製品に及ぼす通常予測可能な影響、またはサイバーセキュリティの適用要件を、新しく人工知能(AI)やソフトウェア製品における安全性欠如(欠陥)を評価する基準として規定している。
同指令ではまた、被害者への損害賠償を保証するため、賠償責任を負う製造者の概念を拡大し、第8条第3項で、被害者が欠陥製品の製造業者や輸入業者を特定することができない場合には、、当該欠陥製品を販売した販売業者またはオンラインプラットフォームに対して製造物責任訴訟を提起することができると規定している。
立証責任の軽減 ― 推定による立証
製品の欠陥およびその欠陥と被った損害との間の因果関係の立証責任は被害者にあるが、欧州司法裁判所(CJUE)は、2017年6月21日の判決(事件番号C-621/15、N. W e.a. contre Sanofi Pasteur MSD SNC e.a)において、特に製品の欠陥、または欠陥と損害との因果関係の証明が技術的または科学的に困難である事案においては、この立証を事実に関する手がかり(間接証拠)や推定によって行うことができるという原則を確立した。フランスの破棄院から付託された先行判決の申立に基づき下された同判決では、欧州司法裁判所は、被害者が、重大かつ具体的で整合性のある間接証拠(本件では被害者がワクチンを受ける前の極めて良好な健康状態、家族歴の欠如、およびワクチン接種と疾患の発症との間の時間的近接性)によって、B型肝炎ワクチンの欠陥性および多発性硬化症との因果関係を立証することが可能であり、その因果関係について医学的なコンセンサスがないことは反証とはならないと判示した。
2024年の製造物責任指令は、この推定による立証可能性を第10条で原則とするとともに、被害者の立証責任を軽減するための新しい「開示」を求める司法命令という新たな手続を導入した(第9条)。同条では、被害者が提出した証拠からその損害賠償請求が「妥当」と見なされる場合には、被害者は裁判所に対し、被告が保有している証拠の強制開示を請求することができるとされている。本手続で証拠の強制開示請求が認められ、被告が裁判所の命令に従わない場合には、指令第10条3項に基づいて、製造物に欠陥があると推定される。
時効および除斥期間
製造物責任訴訟は、被害者が損害、製品の欠陥、及び製造者の身元を知った日、または知っていたはずの日から3年以内に提起しなければならない(民法第1245-16条)。
また被害者は、製品の流通から10年が経過した後は、製造者に対して訴訟を提起することはできない(民法第1245-15条)。
これらの期限のいずれかが経過した場合、被害者は不法行為責任(民法第1240条)に基づき、製造者の過失を証明して損害賠償訴訟を提起しなければならない。
民法第2226条の規定により、人身傷害に関する消滅時効は、当初の損害または悪化した損害が確定した日から10年である。
進行性疾患を引き起こしたワクチンへの製造物責任による損害賠償請求権の消滅時効(欧州司法裁判所、2026年3月26日、事件番号C-338/24、Sanofi Pasteur SA)
この点に関し、かつてフランス破棄院はB型肝炎ワクチン接種後に多発性硬化症(MS)などの進行性疾患を発症した被害をめぐるサノフィ・パスツールに対する製造物責任訴訟で、人身損害に関しては、時効の起算点となる被害者が損害を知った日は、被害者が損害額を算定することができる症状の確定日と解釈すべきであり、進行性疾患をもたらした製造物責任訴訟において症状の確定日を特定することが不可能な場合、民法第1245-16条に定める時効期間は進行しないという立場を打ち出していた(破棄院民事第1部、2023年7月5日判決、上告番号22-18.914)。
進行性疾患を理由とするワクチンへの製造物責任で時効が経過しないとしたこの最高裁の判例は被害者に極めて有利であったが、2026年3月26日の欧州司法裁判所(CJUE)の判決(事件番号C-338/24)によって覆された。
上記案件(上告番号22-18.914)で破棄後の差し戻し先であるルーアン控訴裁判所から付託された先行判決申請を受けて下された本判決において、 欧州司法裁判所(CJUE)は、1985年7月25日の指令で定められた時効期間および除斥期間は、進行性疾患が存在する場合であっても厳格に適用されなければならず、3年の時効期間は、被害者が損害、製品の欠陥、および製造者の身元を知った時点で起算され、症状の確定日まで時効期間が延長することはないという判断を下した。
2024年指令では、1985年7月25日指令で規定された時効および除斥期間をそのまま取り入れているが、欠陥製品により引き起こされた疾患の発症や進行の経過が長期にわたる場合(慢性経過疾患)について、25年の新たな除斥期間を定めている(第17条)。
3. 契約不適合責任
契約不適合責任は、民法上の売主の契約内容に適合した目的物を買主に引き渡す義務(第1604条以下)の不履行を理由として、買主が売主に対し、代替物の引渡し、代金減額、売買契約の解除、および損害賠償を請求することができる制度である。
立証義務と時効
契約不適合責任で売主に対して請求を行うためには、買主は引き渡された目的物が契約の内容(種類、品質、数量)に適合していないことを立証しなければならない。
契約不適合責任に基づく請求権の時効は、買主が当該請求権を行使できる事実を知った日、または知っていたはずである日から5年である(民法第2224条)。
上記の通り、目的物の欠陥が契約不適合と瑕疵担保責任両方の適用条件を満たす場合、買主は瑕疵担保責任に基づいてしか売主の責任を追及することができず、瑕疵担保責任の2年の時効が経過した後で5年の時効が適用される契約不適合責任に基づいて同じ欠陥についての売主の責任を問うことはできない(裁判所により請求が非受理とされる)。
この民法の一方規定である契約不適合責任に加えて、個人の買主と事業者売主間の売買については、消費者契約として特別の契約不適合責任が消費者法L217-3条以下で規定されている。
消費者契約における契約不適合責任では、買主は、商品の引渡しから2年間(中古品売買の場合は1年間)、商品の欠陥が売買前に生じたことを証明せずに、商品の修補や代替物の引き渡し、あるいは代金減額や売買契約の解除を求めることができる。