フランス建設業法 : 工事の施行不良における建築家の損害賠償責任

日本人の起業家、住宅オーナーが、フランスで建築家として働いている専門家にパリで新しく開業する店舗のデザイン・改修工事や、住宅の建設工事を依頼したが、設計ミスや監理ミスによって工事の引き渡し後に数多くの欠陥、瑕疵が見つかったり、当初見積もった予算や工事期間を大幅にオーバーするなどして、問題になることがよくある。

フランスでは、HMONP(Habilitation à exercer la Maîtrise d’Œuvre en son Nom Propre) (自己名義で工事施行を行う許可)という資格を有し、建築家協会(Ordre des architectes)に登録されている建築家は、工事の設計・監理だけでなく、施工(デザインビルド)を行うことができる。

建設・改修工事の瑕疵において、工事の依頼者である建築主が建築家の責任を追及して損害賠償を得るために必要な手続の法的枠組みや立証責任は、建築損害が確認された時期、損害の性質と重大度によって異なるので注意が必要である。

I. 建築家の責任に関する法的根拠

A. 特別責任

民法第1792条以下は、建設業者に特有の責任制度を規定しており、同法第1792-1条は、建築家を建築物の建設業者のカテゴリーに含める旨規定している。

建築家に適用される民法の特別規定は以下の通りである:

 

第1792条 建築物の建設者は、その建築物の建築主または買主に対し、建築物の堅固性を揺るがす瑕疵、またはその主要構造部もしくはそれらの設備に影響し、当該建築物をその用途に不適合とする損害について、建築損害が地盤不良に起因する場合であっても、当然に賠償責任を負うものとする。
第1792-2条 第1792条で規定される責任の推定は、インフラ整備、基礎、躯体、外壁・耐力壁、屋根等の建築物の主要構造部と不可分である建築物の設備要素に影響を及ぼす瑕疵にも適用される。
第1792-3条 建築物の建設者は、建築物のその他の設備について、引渡し日から起算して最低2年間、それらの設備が正常に機能することを保証しなければならない。

 

第1792-5条は、これらの特別規定は強行法規であり、これらの規定で定められた責任を排除または制限することを目的とする契約条項は、すべて無効とみなされると規定している。従って、建築家と締結した工事請負契約書において、施工不良が発生した場合に建築家の責任を免除する旨が定められている場合でも、建築主は建築家を裁判で訴えて、損害賠償責任を追及することができる。

フランス裁判所の判例では、一般的に古い建物内のアパートの改装工事は、内部の改装である限り民法第1792条以下の意味における「建造物」の建設工事には該当しないが、新しい資材の投入や建設技術を用いた建造物の改変を伴う大規模な改修工事、特に外壁、 屋根等の主要構造部や防水性能に影響を及ぼす工事には、民法第1792条以下の規定が適用されるとされている。

a) 10年保証(民法第1792条、第1792-2条)

建築物の堅固性を揺るがす瑕疵、または建築物をその用途に不適合とする瑕疵(第1792条)、またはインフラ整備、基礎、躯体、外壁・耐力壁、屋根等の建築物の主要構造部と不可分である建築物の設備要素に影響を及ぼす瑕疵(第1792-2条)について、工事の引渡しから10年間、工事監理者であった建築家に対して損害賠償を請求することができる。

判例により10年保証の対象となるとされている瑕疵の例:

  • 地盤に対する基礎工事の施行不良
  • 屋根の貫通ひび割れまたは雨漏り
  • 耐力壁のひび割れまたは崩壊、あるいはスラブの沈下
  • 高級ヴィラの全面的な美観損傷
  • 湿気の滞留と視界や採光の妨げにより建物を通常の使用に支障をきたす窓ガラスの内部結露
  • 大規模な浸水を引き起こす配管欠陥
  • ホテルにおける建築・設計ミスによる空調設備の欠陥。

 

一方、建築物をその用途に不適合とするに至らない単なる外観上の不具合は、10年保証の適用を受けないとされている。

また、工事の引渡しにおいて留保事項とされた軽微な不具合や未完成部分については、10年保証ではなく、民法第1792-6条に規定される「完全竣工保証」の対象となり、施行会社のみが責任を負う。

立証責任

確認された瑕疵や損害が、民法第1792条およびそれ以降の条項で規定される瑕疵・損害と同じ性質、重大度であるとされる場合、建築家は、その瑕疵・損害が自身の過失により生じたか否かを問わず、建築主に対して当然に損害賠償責任を負う(=責任が必然的に成立する)。

この損害賠償責任は過失の有無を問わない「当然」(plein droit)のものであることから、建築家は、損害賠償責任を免れるには、瑕疵・損害が不可抗力や第三者の行為により生じたこと、または確認された瑕疵や損害が発生した時期に工事に関与していなかったことを立証しなければならない(破棄院民事第3部、2023年6月8日判決、事件番号21-25.822)。施行会社のみの過失により瑕疵・損害が発生した場合でも、建築家の賠償責任は成立しうる(破棄院民事第3部、 2001年6月27日判決、事件番号00-12.130)。

b) 2年保証(民法第1792-3条)

工事の引渡し日から2年間、建築家は、取り外しまたは交換が可能な建築物の設備の機能に支障をきたす瑕疵がある場合には、その設備を修理・交換する責任を負う。

判例により2年保証の対象となるとされている瑕疵の例:

暖房、空調、換気システム、および躯体に組み込まれていない配管の機能不全。

一方、塗装、タイル、カーペットなど、機能を持たない部分の瑕疵については、民法第1792-3条の2年保証は適用されない(破棄院民事第3部、2000年4月27日判決、事件番号98-15.970)。

B. 民法上の責任

発見された瑕疵または損害が民法第1792条以下の適用要件を満たさない場合、建築主の建築家に対する損害賠償請求は、民法上の責任に関する条項に基づいて行わなければならない。

a) 契約責任(債務不履行)(民法第1231-1条)

以下の損害に関する損害賠償請求は、民法の契約責任に関する条項を基に行う必要がある:

  • 工事中に発生した損害(例:工事の適合性を確認する義務の不履行、現場監督の不備)
  • 引き渡し時に留保された損害:これらの損害が第1792-6条に規定される完全竣工保証の対象となる場合でも、留保が解除されるまでは、施行会社と建築家の契約責任は存続する(破棄院民事第3部、1995年12月13日判決、 事件番号92-11.637)ため、施行会社が不備を修復するための工事を行うことを望まない場合、建築主は施行会社および建築家に対して損害賠償請求を行うことができる。
  • 工事の引渡し後に生じた損害で、10年または2年の保証が適用されない損害(単なる外観上の不具合、または建物の堅固性やその用途に支障をきたさない適合性欠陥(破棄院民事第3部、2024年11月7日判決、事件番号23-12.315)
  • 引渡し遅延により建築主が受けた経済的損害(仮住まいの賃料等)
  • 建築家の情報提供義務、助言義務不履行により建築主が受けた損害(例:請負業者の選定に関する不適切な助言、予算見積もりミス(予算の大幅超過、後述)、建築許可の規定の不遵守(破棄院民事第3部、2017年6月29日判決、事件番号16-14.264号)

 

予算の大幅超過に関する判例では、建築家の当初の見積額と実際の工事費との間には、10%の許容範囲が認められている。この10%の許容範囲を超える場合で、建築家が建築主に情報提供を怠った場合には、建築主が負った損害を賠償する義務が生じる(破棄院民事第3部、2015年9月29日判決、事件番号23-16780号 ; 2025年2月13日判決、事件番号23-16780号)。

立証責任

建築家が監督した施工の不良、技術基準の不遵守、または不適切な資材の使用に起因する建設・改修工事の欠陥が生じた場合、建築主は、建築家の過失により損害が発生したこと(過失と損害との間の因果関係)を立証して建築家に対し損害賠償請求を行うことができる。建築家が工事管理・施工業務において一般的に負っている義務は手段の義務であるため、立証責任は原告である建築主にある。

一方、建築家の過失が情報提供義務、助言義務不履行(例えば、建築資材の選定に関する情報の提供不足や、予算見通しの過小評価など)である場合、建築家が負っている情報提供義務、助言義務が結果の義務であることから立証責任は転換し、建築家がその義務を履行したことを証明しなければならない。

時効

工事の引渡し前に発生した損害については、建築家の契約不履行に基づく損害賠償請求訴訟の時効は、建築主がその請求権を行使できる事実を知った日、すなわち損害が発生または明らかになった日から5年間である(民法第2224条)。

工事の引渡し後に発生した損害については、建築家の契約不履行に基づく損害賠償請求訴訟の時効は、工事の引渡し日から10年である(民法第1792-4-3条)。

b) 不法行為責任(民法第1240条および第1241条)

建築主と建築家との間に直接の契約関係が存在しない場合(建築家が工事施行会社の請負人である場合など)には、建築家の過失により損害を受けた建築主は、不法行為に関する民法の条項を基に損害賠償請求を行わなければならない。不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の時効は5年である(民法第2224条)。

 

II. 建築家に対する損害賠償請求訴訟手続

建築損害は高額になりうる一方、建築家に対して提起した損害賠償請求訴訟で建築主が勝訴しても、建築家に損害を賠償する資力がない場合には判決を執行できないため、建築家に対して損害賠償請求訴訟を提起する場合には必ず建築家が加入している保険会社を訴訟に介入させなければならない。

建築家には、建築家の10年保証、及び民法上の職業責任両方をカバーする保険に加入することが法律で義務付けられている。この義務的保険の証明書は常に工事請負契約書に添付されるため、建築主は建築家が加入している保険会社を特定することができ、建築家に対して訴訟を提起する代わりに、保険法第L124-3条に基づいて、建築家の保険会社に対して直接、損害賠償請求訴訟を提起することができる。

10年保証の対象となる瑕疵や損害の賠償請求訴訟においては、建築主は、建築家の過失を立証する必要はない。建築主の弁護士は、本案訴訟の訴状の中で、当該瑕疵または損害が民法第1792条以下の適用範囲に該当すること、および当該瑕疵または損害が、建築家との間で締結された設計・施工契約に基づき、建築家の業務範囲に属することを立証すれば足りる。

一方、10年保証が適用されない瑕疵損害については、建築主の弁護士は、建築家の業務遂行における過失と、瑕疵や損害の発生との間に因果関係があることを立証する論拠を訴状の中で展開しなければならない。

いずれの場合も、建設法に関する訴訟案件では、瑕疵・損害の法的性質と、その原因を特定するために、私的鑑定または司法鑑定が必要となる。

私的鑑定は、手続にかかる時間と費用が司法鑑定に比べてずっと少なくなるというメリットがあるが、鑑定人が当事者の一方と関係があるなど公平性を欠く可能性があり、また報告書の結論は当事者に対して拘束力を有しない。

一方、民事訴訟法第145条の規定に基づきレフェレの手続で地方裁判所(tribunal judiciaire)の裁判所長が命じる司法鑑定は、当事者から独立した立場の鑑定人によって行われ、その鑑定報告書の結論はすべての当事者に対して拘束力を持つ。司法鑑定人が建築家の賠償責任を認める報告書を提出する場合、建築主の弁護士は、本案訴訟の訴状で、報告書の結論に沿って法律議論をまとめることになる。

鑑定の申請は建築物の所在地を管轄する地方裁判所の裁判長に対して行う(民事訴訟法第44条)。建築主の執行官が建築家にレフェレの訴状を通達した日から訴訟手続の消滅時効が中断する。