建設工事における隠れた瑕疵の証明責任

破棄院民事第3部、2022年3月2日判決、上告番号21-10.753、Villa Home Création c. SCI 2M

建物の建設工事において、工事が完成すると、建設業者は工事の目的物を建築主に引き渡し、建築主は受領を確認する。新築物件の売買契約では、工事の目的物の受領は建築業者と物件の売主である建築主の間で行われ、物件の買主は工事の目的物の受領には立ち会わない。その後物件が売主から買主に引き渡されると、建築主である売主と建築業者との間で行われた工事の目的物の受領の効果が買主に及ぶことになる。

建築物に隠れた瑕疵(欠陥)があった場合、売主またはその請負人である建設業者は、その欠陥を自分の費用で直す、または買主がその欠陥により負った損害を賠償する責任(瑕疵担保責任フランス民法1646-1条)があるが、この瑕疵担保責任は工事の目的物の受領日から一定の期間のみ保証され、瑕疵の種類により責任を追及できる期間が法律で定められている:

  • 民法1792条、1792-2条で定義される工事の目的物への影響が大きい瑕疵:受領日から10年
  • 民法1792-3条で定義される工事の目的物の設備のみに関する瑕疵:受領日から2年

工事の目的物の受領(réception)は、建築主が請負人から工事の目的物を留保をつけずに、または留保をつけて受領する手続であるが(民法1792-6条)、建築主が工事の目的物を留保なしに受領すると、その時点で目に見えていた瑕疵や契約不適合について建築主がそれらを受け入れた効果が生じ、後日建築主はそうした瑕疵や契約不適合について建築業者の責任を追及することができない(破棄院民事3部、1987年12月16日、上告番号86-15.444、2005年11月8日判決、上告番号04-16.932)。通常、建築業者と建築主の受領手続においては議事録が作成され、建築主は目に見える瑕疵や契約不適合について留保がある場合にはそれを記載する。

建築紛争において、工事の目的物の瑕疵に対する建築業者の責任が追及される場合、その瑕疵が隠されたものであったため建築業者の瑕疵担保責任が成立するか、それとも目に見えるものであったため建築業者の瑕疵担保責任が免除されるかは、受領時点で、建築主にとってその瑕疵が通常の注意力で発見できたものであったか否かが裁判所の判断の基準となる。建築主が開発業者のように専門知識がある者である場合には、基準となる「通常の注意力」も高いものとされ、設備の技術的な欠陥でも受領時に留保をしなかった瑕疵について請負業者の瑕疵担保責任を追及することはできなくなる。

かつての破棄院の判例では、工事の目的物の瑕疵について建築業者の瑕疵担保責任が追及される場合、その瑕疵が建築主にとって通常の注意力で発見できたものであったものであることを建築業者の側が証明する義務があるとされていた。

しかし近年破棄院は立場を変え、2004年7月7日の判決以降、建築物の瑕疵担保責任訴訟においては、責任を追及する建築主が、その瑕疵が通常の注意力では発見できなかったものであることを証明する義務があるという原則を打ち出すようになった(破棄院第3部2004年7月7日判決、上告番号03-14.166)。

本件は商業物件の建設工事において、隠れた瑕疵や契約不適合の証明責任は建築主が負うという原則を確認したものである。

タルブ市の建築業者であるVilla Home Création社は、個人の投資家X氏から委託を受けて、SPAとなる商業物件の建設工事を請け負ったが、物件を引き渡してから物件の設備に瑕疵(ローラーシャッターの機能不全)と契約不適合(工事仕様書と違う木造テラスの設置)があるとして、X氏とX氏が設立し本物件の管理を行うSCI 2M社、及び物件の借主であるO Spa des sens社から瑕疵担保責任で訴えられた。

第一審では瑕疵の原因を解明するための鑑定手続が行われ、ポー (Pau)控訴院はVilla Home Création社の瑕疵担保責任を全面的に認め、SCI 2M社への損害賠償の支払いを命じたたが、Villa Home Création社は、建築主であるX氏が受領時に留保を一切行わなかったことを理由に、問題となっている瑕疵や契約不適合は建築主にとって通常の注意力で発見でなかったことを証明する義務は建築主にあるとして、上告を行った。

破棄院は問題となったローラーシャッターの瑕疵と木造テラスの契約不適合のうち、ローラーシャッターについては、物件の受領時に瑕疵の原因があったが瑕疵自体は受領後に発生したので瑕疵担保責任を認め、一方物件内の木造テラスが工事の仕様書通りに設置されていなかったことについては、破棄院第3部2004年7月7日判決と立証責任に関する民法1315条(現1353条)の規定に鑑み、受領時に存在した契約不適合について、それが通常の注意力では発見できなかったことを証明する義務は建築主にあるとして、この点とVilla Home Création社に命じられた損害賠償の額について控訴院の判決を破棄差し戻す判決を下した。