選択的流通制度-販売店契約違反に関与する契約第三者の損害賠償責任

(パリ控訴院第5部4院、2015年2月4日判決、判決番号12/20412, STÉS SNIA ET GUEZ ET FILS C/ STÉ FIAT)

垂直的協定に関する2010年4月20日欧州委員会規定(330/2010/UE)第1条は、選択的流通制度(distribution sélective)について「メーカーが契約の対象となる物品またはサービスを一定の基準に基づいて選ばれた販売店のみに販売し、選ばれた販売店はメーカーが定めた地域内においてその物品またはサービスをメーカーが選んだ販売店以外の販売店に販売しないことを約束する制度」と定義している。

選択的販売店契約では、①メーカーは選ばれた販売店のみに商品、サービスを提供する義務を負う一方、②選ばれた販売店(以下“特約店”と記載)は同業の他のメーカーと販売店契約を結ぶ権利を保障される点で、あるメーカーの独占販売店となる独占的販売店契約(distribution exclusive専売店契約)と区別されるが、メーカーは販売店契約の中で販売店に、最低販売個数目標やサービス、販売環境、広告などの質に関する基準を課すことができ、販売店がその基準を満たさない場合には契約の解除が認められる。

選択的販売店契約は自由競争を阻害する性質があるため、契約が合法となるためには、販売店の選択の基準が客観的で全ての小売店に差別なく適用され、かつその商品やサービスの販売環境を保障するために厳格に必要なものでなければならず、そうでない基準は公正取引委員会により無効とされる。例えば店舗での商品販売を義務づけ、インターネットでの販売を販売店に禁止する条項は認められない(Pierre Fabre Dermo-Cosmétique社事件、破棄院商事部2013年9月24日判決n°12-14344 、欧州司法裁判所2011年10月13日先行判決、C 439/09)。

上記330/2010/UE欧州委員会規定の定義に見られるように、特約店以外の販売店への販売禁止は選択的販売店契約に内在する義務であり、メーカーにとってその流通・販売政策を販売店に反映させる上で重要なものであるが、この契約義務は契約当事者以外の第三者を拘束しないため、判例上、特約店でない販売店が選択的販売店契約で販売されている商品を販売した場合、その販売行為自体は合法で不正競業を構成しないとされている(破棄院商事部1988年12月13日判決Lanvin c. Rocadis Centre Leclerc n°87-15527, Axel Courrèges c. Goguet n°87-16098 ; Christian Dior c. Rocadis Centre Leclerc n°87-15523 et 87-16105)。

従って、メーカーは特約店でない販売店が選択的販売店契約で販売されている商品を販売している場合にその販売店を不正競業で訴えるためには、その販売行為以外の過失を証明する必要がある。
例えば特約店でない販売店が違法または不正な方法で商品を仕入れた場合や、その販売方法がメーカーやブランドのイメージを傷つける性質のものである場合には不正競業を構成する過失として認められる。この点破棄院は、特約店でない販売店が販売している商品の供給先を明かさない場合には、商品の仕入れの違法性が推定され、不正競業が成立するという原則を打ち出している(破棄院商事部1992年10月27日判決Azzaro c. Pin Ups, n°90-15831)。メーカーから訴えられた特約店でない販売店は自らがその供給先から合法に商品を仕入れたことを証明する義務を負うが、一方その供給ルート全てに遡って商品の流通が合法であることを証明する義務はない(破棄院商事部2013年10月22日判決Motoworld c. PC Moto, n°12-22281)。

特約店でない販売店がメーカーと選択的販売店契約を結んでいる特約店から商品の供給を受ける場合には、その特約店による契約義務違反に関与することとなるが、商法L 442-6条 I, 6°はこのように“販売ネットワーク侵害の共犯者”となる者について民事責任を定め、販売店契約の効果を第三者である特約店でない販売店に及ぼす規定を設けている。
この規定が適用されるためには訴訟の原告となるメーカーは特約店または専売店から商品の供給を受けたと考えられる販売店が、その商品が選択的販売店契約で販売されていたことを知っていたことを証明するだけで足りる。本件は販売店契約が解除された後に契約対象となっていた車を正規販売店から供給を受けて販売していた元ディーラーに対し、同条の規定が適用されてメーカーが受けた損害の賠償が命じられたものである。

Normande d’importation automobile(SNIA) 社は2003年10月以降、FIATフランス社の車のディーラーとして7つの販売店契約を結んでいたが、販売成績が目標に満たず2006年9月FIAT社から2年の予告期間付きで契約を解除されたため、その親会社であるGUEZ et FILS 社とともに2010年3月FIATフランス社に対して、濫用的な契約解除を理由に損害賠償請求訴訟を提起した。
パリ商事裁判所は2012年10月24日の判決で、FIAT社による販売店契約の解除は正当であるとしてSNIA社とGUEZ et FILS 社それぞれに対し、FIATフランス社の訴訟費用として5000ユーロの支払を命じる判決を下したため、SNIA社とGUEZ et FILS 社はFIAT社が販売店契約で定められた解除の理由を明確にする義務を守らなかったとして控訴を行い、一方FIATフランス社はSNIA社が2008年に販売店契約が解除された後も不当にFIAT社の販売ネットワークを害して契約の対象となっていた車の販売を続けたことを理由に損害賠償を請求した。2015年2月4日の判決でパリ控訴院は商法L 442-6条 I, 6°の規定を適用し、SNIA社が販売している車の供給先を明かすようFIATフランス社から履行催促を受けた後もその供給先を明かさなかったことはその販売行為の違法性を裏付けるものであり不当競業が成立するとして、SNIA社に対しFIATフランス社に対する損害賠償の支払とSNIA社とGUEZ et FILS 社それぞれに対し追加の訴訟費用5000ユーロの支払を命じた。

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