知的財産権・芸術法

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作品が著作物として著作権で保護されるためにはまずそれが五感のいずれか一つで近く可能な形で表現されている必要があります。単なるアイデアや情報、ノウハウは書面、造形、音声等の形で外部に表現されない限り、著作権による保護の対象とはなりません。

次に、著作権による保護を受けるためには、その作品に創作性(originalité)があることが必要です。独創性とは、作者独自の個性が表れていることを意味しますが、法律でその概念が規定されているのではなく、裁判において裁判官がケースバイケースで創作性があるか否かを判断します(破棄院民事第1部、2014年12月10日判決、上告番号13-23.076)。

フランス裁判所の判例では創作性について主観的なアプローチが採用されており、個人的な選択、創作努力、および作者の個性の表現が重要な要素とされています。従ってフランスでは二次的著作物(派生作品)でも、原著作物の作者でない作者個人の創作努力が認められ、その個性が表現されていれば、それ自体著作権で保護され、原作者の許諾は必要ありません。

一方欧州連合司法裁判所(CJEU)は独創性についてより客観的なアプローチを取っており、Infopaq(インフォパック)判決において、創作性とは作品が作者の自由で創作的な選択を通じて自分の頭で作り出した(création intellectuelle)、本人の個性を反映することであると定義する判例を確立しています(欧州連合司法裁判所2009年7月16日判決、C-5/08)。

 

著作権侵害訴訟で原告適格を立証するためには自身が著作物の著作者または著作権者であることを立証する必要があります。

著作物が初めて公表・提示される際に、氏名や名称(実名)または周知の変名が表示されている人は、その著作物の著作者と推定されます(知的財産権法L113-1条)が、別の者が客観的な証拠によって自分が真の著作者であると証明する場合にはこの推定は覆されます。

著作権侵害訴訟ではまた、自身の作品が盗作行為が行われる前に創作されたことを立証する必要があります。著作物の存在事実証明は、形式を問わず、間接証拠の集合を含むあらゆる手段によって行うことができますが、著作権侵害訴訟においては創作日が極めて重要となるため、創作時点から著作物の存在事実証明を残しておくことが有用となります。

フランスでは産業財産庁(INPI)で「e-Soleau」(旧称「Soleau封筒」)と呼ばれる著作物の登録制度、及び執行官の確認書が、著作物の創作日や存在事実を公的に証明する主要な方法となっています。

追求権とは、図表・造形美術(絵画や彫刻など)の著作者である芸術家に認められた著作財産権で、オークションや美術商といった美術品市場の専門家による美術品の売買において、美術品の転売価格の一定の割合の支払いを著作者が受けることができる権利を指します(知的財産権法L122-8条)。
フランスで追求権の制度は1920年5月20日法で制度化されましたが、2001年9月27日に欧州連合で採択された「オリジナルの芸術品の著作者に帰属する追及権に関する指令(指令2001/84)」により加盟国内で追求権の制度が統一されました。追求権は、著作者である芸術家の生存中は芸術家本人に、芸術家の死後は70年間、その相続人に支払われます(知的財産権法L123-7条)。

作品の価格が750ユーロ未満の場合には追及権は適用されず(知的財産権法R122-5条)、それ以上の場合に適用される追及権の料率は、知的財産権法R122-6条で以下のように規定されています:

50,000ユーロ以下の作品:売価(税抜価格)の4%
50,000ユーロ以上200,000ユーロ以下の作品:売価の3%
200,000ユーロ以上350,000ユーロ以下の作品:売価の1%
350,000ユーロ以上500,000ユーロ以下の作品:売価の0,5%
500,000ユーロ以上の作品:売価の0,25%

ただし、上限は12,500ユーロで、2百万ユーロ以上の作品については、いくら高額で売れても追求権の額は一律12,500ユーロとなります。

著作者には著作者人格権として著作者が自分の著作物を意に反して改変されない権利(同一性保持権)を有しています(知的財産権法L121-1条)。小説の映像化には映像化における制約から、演出上の変更や脚色、構成・結末の改変が行なわれることは不可避ですが、登場人物の特徴を変更するなど原作の精神を損なう極端な改変や、著作者の人格を侵害する種の改変の場合には、原作者は制作会社に対して映画の公開前に改変を拒否し、修正を求めることができます。

交渉が決裂する場合には、原作者は制作会社に対して以下の請求を行うことができます:

損害賠償請求:被告である制作会社の所在地を管轄する裁判所(民事訴訟法第42条)または損害が発生した場所、すなわち著作物が利用された場所を管轄する裁判所(民事訴訟法第46条)のいずれかの地方裁判所で、極端な改変による著作者人格権(同一性保持権)の侵害で受けた損害の賠償を請求する本案訴訟。

著作物の利用停止、問題の場面の修正または削除:被告である制作会社の所在地を管轄する裁判所(民事訴訟法第42条)または損害が発生した場所、すなわち著作物が利用された場所を管轄する裁判所(民事訴訟法第46条)のいずれかの地方裁判所の裁判所長の下で、極端な改変が民事訴訟法835条で規定されている「明白に違法な侵害」(trouble manifestement illicite)であることを証明し、著作物の利用停止、問題の場面の修正または削除を請求するレフェレ(référé、仮処分)の訴訟。

従業員が職務上作成した作品の著作権は、たとえ雇用主から提供された機材を用いて作品を制作した場合であっても、著作者の資格を持ち、雇用者が従業員の著作物を使用、販売することを希望する場合には、従業員と著作権譲渡契約を交わす必要があります。雇用契約に従業員の将来の創作物を自動的かつ包括的に雇用者に譲渡することを定める条項が含まれた場合には無効となります(知的財産権法L131-1条)。

著作権譲渡契約は口頭では成立せず、必ず以下の事項を記載した書面で行う必要があります(知的財産権法L131-2条、L131-3条):

譲渡の対象となる著作財産権(権利ごとに明記)
譲渡される権利の使用分野(範囲、対象、場所、期間を明記)

また、著作権譲渡契約書には、当該譲渡が有償か無償かについても明記が義務づけられており(知的財産権法L122-7条)、有償譲渡の場合には、報酬は原則として著作物の販売または利用から得られた収益に連動したロイヤリティである必要があります(知的財産権法L131-4条)。一方無償譲渡は、法律上生前贈与となるため、民法第931条の規定に従い譲渡契約書は公正証書の形で作成されなければならず、私署証書形式で作成された著作権譲渡契約は無効となります(パリ地方裁判所、第3部第1課、2023年4月12日判決、事件番号23/50949、2023年7月6日判決、事件番号23/02616)。

ソフトウェアの作成者とジャーナリスト(新聞記者や社内所属の記者)に関しては例外的に職務として制作したソフトウェアや書いた記事の著作権は雇用者に帰属するという規則が定められています(知的財産権法L113-9条、L132-36条)が、フランスを始めEUの著作権法では法人は著作者とはなりえないため、譲渡されえない著作人格権は作者であるソフトウェアの作成者とジャーナリストが保有します。

出版社は、著者に対する決算報告義務として、少なくとも年に1度、発行・印刷部数、販売部数、在庫部数、委託販売部数、廃棄部数、及び売上げに応じた印税の額を記載した報告書を著者に対して送る義務があります(知的財産権法 L132-17-3 I)。法律上の義務であるため出版契約書に明記される必要はありません。

出版社は著者に対して、決算報告をしてから6か月以内に印税を支払う義務があります(知的財産権法L132-17-3-1条)。

出版社がこれらの義務を守らない場合には、著者は出版社に履行催促状を送り、それから3か月経過しても出版社が義務を怠る場合には、出版契約は自動的に解除されます(知的財産権法L132-17-3 II条、L132-17-3-1条)。

フランスでは2022年12月20日に全国出版組合(Syndicat national de l’édition、SNE)、作家常任評議会(Conseil permanent des écrivains、CPE )、作家連盟(Ligue des auteurs professionnels、LAP)の間で締結された業界間合意に基づき、2027年12月20日以降、出版社の決算報告義務は年に1度から2度に変更されることが予定されています。

2000年6月8日の電子商取引に関するEU指令2000/31/EC以降、YouTubeなどのインターネットホスティングサービスプロバイダーは、伝達/保存する違法コンテンツについてそれを知らなかった限りで損害賠償責任、刑事責任を一切負わないという原則が確立されています(同指令第15条)。YouTube上での著作権侵害行為で損害を受ける著作者は、従ってYouTubeに対して著作権侵害行為について通知を行い、それでも違法コンテンツが削除・アクセス不能にならない場合にのみ、YouTubeに対して損害賠償請求を行うことができます。

指令2000/31/ECをフランスで国内法化したデジタル経済における信頼のための2004年6月21日の法律、通称LCEN法はかつてその第6条第1項第5号において、ホスティングサービスプロバイダーに対する通知で記載が義務づけられる事項(通報者および通知受領者の身元、 問題となっているコンテンツの説明、その正確な位置、および該当する場合は、当該コンテンツがアクセス可能な電子メールアドレス、問題となっているコンテンツを削除またはアクセス不能にするべき法的根拠など)を詳細に定めており、フランスの裁判所は通知にこうした事項が一つでも欠けている場合にはホスティングサービスプロバイダーは違法コンテンツの削除義務を負わないとして、権利者の損害賠償請求を却下する判例の原則を打ち出していました(破棄院2011年2月17日判決、上告番号09-15.857, 09-67.896)。

違法コンテンツの通知におけるこうした問題を解消するため、2022年10月19日に指令2000/31/ECに代わるものとして制定されたデジタルサービス規則(「Digital Services Act」、 DSA法)は、ホスティングサービスプロバイダーに対し、違法コンテンツの通知を電子的に行うためのシステムを整備する義務を課しています(DSA法第16条)。

このDSA法の規定が2024年2月17日以降全てのホスティングサービスプロバイダーに適用となったことを受けて、YouTubeは違法コンテンツの通報に関する新しいシステムを導入しており、著作者は著作権を侵害する動画の下部にあるにある3つの点(「…」)をクリックし、「通報」オプションを選択した後、「法的問題」、「著作権に関する問題」を選択し、当該動画の削除請求フォームに必要事項を記入した後、YouTubeのサイトからフォームを送信することができます。

この通知を行った後、違法なコンテンツがYouTubeによって削除またはアクセス不能にされない場合には、著作者はLCEN第6-3条(旧第6条I 8)に基づき、地方裁判所の裁判所長のもとでの急速本案審理手続(procédure accélérée au fond、民事訴訟法481-1条)という手続で、侵害コンテンツの削除請求、侵害行為の差止請求を行うことができます。YouTubeの過失、すなわち通知後も違法コンテンツを削除またはアクセス不能にしなかった事実を証明するためには、執行官に、スクリーンショットを添えて具体的に説明する確認書の作成を依頼するのが最善とされています。

一方、YouTubeの責任と著作権侵害により受けた損害の因果関係を立証することは困難であるため、損害賠償請求を行う本案訴訟は権利侵害者に対して提起する必要があります。侵害者が匿名で侵害行為を行っている場合、その身元を特定するために民事訴訟法第145条に基づくレフェレの手続(“référé in futurum”と呼ばれる)で地方裁判所の裁判所長に対し、YouTubeに侵害者の身元情報を開示するよう命じるよう請求することができます。

ある標章(文字や図形によるネーミング)が商標権で保護されるためには、その標章に識別性(distinctivité)があることが必要です。識別力とは、ある企業や事業者の製品やサービスの対象となる消費者や顧客が、その商標を見てその企業や事業者の製品やサービスであることがわかり、別の企業や事業者の製品やサービスと区別できることを意味します(知的財産権法L711-1条, L711-2 2°条)。

識別性の概念は法律で定義されているのではなく、判例で定義されてきた概念で、裁判において裁判官がケースバイケースで識別性の有無を判断します。

扱う商品やサービスとは何の関係のない恣意的な言葉または造語からなる標章には強い「内在的識別性」(distinctivité intrinsèque)があるとされ、一方扱う商品やサービスを示唆するが直接表す言葉でない暗示的な標章にも、識別性が備わっていると判断されます。
一方、その商品やサービスの一般名称や通称、またはその商品やサービスの特性(性質、量、対象・用途など)をそのまま記述する標章には識別力が欠如していると判断されます。

欧州司法裁判所(CJUE)の判例では、商品の機能を記述する言葉から成る標章でも、通常とは違う語の組合せによって全体として識別性がある印象を与える場合には、商標として有効であるとされています(欧州司法裁判所、2001年9月20日判決、C-383/99 P、Procter & Gamble / OHMI, “Baby-dry”))。

商標権で保護されるにはまた、その標章が公序良俗に反しないこと(知的財産権法L711-2条第7)、商品やサービスの性質や品質、産地に誤認を生じさせるものでないこと(知的財産権法L711-2条第8)が必要です。

フランスを始めEUの商標法では、初は識別性が欠如していた標章が、継続的、集中的かつ長期にわたって使用されることにより識別性のある標章となる場合について規定しています(知的財産権法L711-2条最終段落)。実務上この「使用により得た識別性」(distinctivité acquise par l’usage) の議論は、商標を登録後に識別力の欠如を理由として商標の無効請求がなされる場合に、商標権者が応訴する根拠の一つして用いられます(破棄院商事部、2021年1月27日判決、上告番号18-20.702(ファストフードチェーン「Quick」の商標「Giant」に関する事件))。

スローガンは、それが商品やサービスの出所識別機能を持ち、商標の有効要件を満たす場合(出願の対象となる商品・サービスの一般名称やそれらの品質・特徴をそのまま記述したものでないこと、品質誤認を招くものでないこと)に、商標として登録されることができます。

フランス産業財産庁(INPI)と欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、スローガンは、独自性が高い造語や表現の組み合わせや、扱う商品やサービスと直接結びつかない表現が使われている場合、「驚き」や「意外性」があり、消費者の思考や解釈を促すものである場合に、識別性があるものとして商標登録が認められるとしています。またリズム感のあるフレーズや比喩、逆説といった言葉遊びを含むスローガンも、識別性を有すると判断されます。

スローガンが商標権による保護の要件を満たさない場合には、創作性があることを条件に著作権で保護されることができます。また、競合他社が自社と酷似した、または類似したスローガンを使用する場合には、混同惹起行為として不正競争で訴えることができます。

商標権によって保護されている標章と類似する標章を、商標が指定している商品またはサービスと同じ、または類似する商品またはサービスについて使用し、それによって一般の消費者が、その商品・サービスの出所を混同する恐れがある場合、商標権侵害が成立します(知的財産権法L713-2条2)。

欧州司法裁判所(CJUE)の判例では、混同の恐れ(risque de confusion)は、特定の単一の要素だけでなく、関連するすべての要素を総合的・包括的に評価して行う必要があるとされ(欧州司法裁判所、1998年9月29日判決、C-39/97、Canon c. Metro-Goldwyn-Mayer)、またこの包括的な評価 (appréciation globale) を行う際に考慮する要素、特に標章間の類似性の程度と指定商品・役務間の類似性の程度には相互依存関係(interdépendance)がある(補完し合う) という原則が打ち出されています。

指定商品または役務間の類似性を総合的に評価する際には、全ての要素、特に商品の性質、用途、司法方法、補完性、競合性といった要素が評価の対象となります。

標章の類似性は、視覚的側面(例えば、文字商標では文字数や単語数、ロゴでは全体的な形状や配色)、聴覚的側面(音節数やリズムの配列)、観念的側面(商品やサービスの対象となる消費者に呼び起こす意味内容や概念)の3つの側面から評価されます。この評価は、標章が与える全体的な印象に基づき、標章を構成する言葉の識別性や支配的な要素(例:主要な語句)を考慮して行われます。例えば標章間に観念上の違いがある場合には、視覚的、聴覚的に類似していても全体的な印象として類似性が弱いと判断されることがあります。

混同の恐れは、該当する商品やサービスに関する通常程度の知識と注意力を持っている「平均的な消費者」を基準として判断されます(欧州司法裁判所、1997年11月11日判決、C-251/95、SABEL c. Puma)。問題となる商品やサービスが専門家向けの技術的な商品やサービスである場合、一般消費者に比べて需要者の注意力が高いと見なされるため、一般消費者向けの商品やサービスよりも混同の恐れが低いと判断されます。

フランスでは、第三者の権利を侵害して、あるいは法的または契約上の義務に違反して商標が登録された場合に、被害者が登録された商標の所有権を自分に移すことを裁判で請求することができる手続(action en revendication de marque、「商標権主張の訴え」、知的財産権法L712-6条)があります。この手続で競合他社が登録した商標の権利を自社に移転させることを希望する場合には、当該標章を自分が先に商号として使用していたことの証拠(ウェブサイト、レターヘッドなど)、及び出願人の不正行為に関する客観的な証拠を提示する必要があります。

この「商標権主張の訴え」に関する訴訟の時効は、不正に登録された商標の登録出願公開日から5年ですが、出願人に悪意があると判断される場合には、この時効は適用されず、被害者は商標の登録出願公開日から5年の期間が経過後も出願者の悪意を証明して商標権主張の訴えを提起することができます。

商標権主張の訴えは、フランス商標の場合、商標に関する紛争について専門管轄権を有する10の裁判所(司法組織法の付属書表VI)、すなわちパリ、ボルドー、フォール=ド=フランス、リール、リヨン、マルセイユ、ナンシー、レンヌ、ストラスブール、トゥールーズ)のいずれかの地方裁判所で提起し、欧州連合商標の場合にはパリ地方裁判所で提起する必要があります。

また競合他社の不正行為や悪意を理由に、その商標権を無効にしたい場合には、知的財産権法L711-2条第11の規定(悪意による商標登録出願の禁止)に基づき、商標登録無効審判を請求することができます。

商標登録無効審判の請求は、フランス商標の場合でそれだけが請求内容の場合にはフランス産業財産権庁 (INPI)が専属管轄権を有しており(2019年5月22日の法律第2019-486号(通称PACTE法))、審判の申立ては産業財産権庁のウェブサイト上のフォームを通じて行います。
欧州連合商標の場合には、欧州連合知的財産庁(EUIPO)で商標登録無効審判の請求を行う必要があります。

出願者の悪意を理由とする商標登録無効審判には時効は適用されません(知的財産権法L716-2-6条)。

商標権主張の訴え、商標登録無効審判、どちらにおいても、出願人の悪意が成立する要件は判例で以下のように定められています(欧州司法裁判所、2009年6月11日判決、C-529/07 Chocoladefabriken Lindt & Sprüngli):

当該商標の出願日時点において、出願人が、自分が出願しようとしている商標と同じまたは類似した標章を第三者が既に(EU加盟国の少なくとも一つの国において)使用していたことを知っていた、または知っていたはずであったこと、及び
その出願によって第三者による当該標章の使用を妨げる意図があったこと。

商標権主張の訴え(商標の登録出願公開日から5年の期間が経過した場合)、商標登録無効審判で出願人の悪意を証明するためにはこの2つの要素を証明する客観的な証拠を提示する必要があります。

商標権の譲渡を無償で行う場合には、法律上譲渡が生前贈与とみなされるため、民法第931条に規定される生前贈与の要件に従って、譲渡契約は公証人による公正証書の形で作成される必要があり、当事者間で作成された私署証書形式の商標の無償譲渡契約は無効となります(パリ控訴院、2024年3月13日判決、事件番号22/05440 (パリ地方裁判所第3部、2022年2月8日判決、事件番号19/14142を確定))。

なお、商標の無償譲渡では無償譲渡税が課され、譲受人が支払う必要があります。親族関係がない第三者間における無償譲渡税の税率は商標の時価の60%です。

譲渡人の側では商標の無償譲渡(または象徴的な金額(1ユーロ)による譲渡)に際して、税務調査が入り、「異常な経営行為」(actes anormaux de gestion)として、譲渡された商標の時価を譲渡会社の課税所得に算入する可能性があります。その場合、商標の実際の時価に基づいて算出された譲渡益に25%(中小企業の場合は15%)の率で法人税が課されます。

 

商標権の譲渡価格(またはライセンス料)は、譲渡人(また商標権者)と譲受人(または非許諾者)の間で自由に決めることができます。

ただし、商標の価値を算定する国際規格ISO 10668に基づく商標評価を行うと、評価報告書に「対抗力」があるため、税務当局は報告書で算定された商標の価値について異議を唱えることができないという利点があります。

ISO 10668規格で規定されている商標の譲渡価格(またはライセンス料)の評価方法には、以下の3つがあります:

1) インカム・アプローチ(収益評価) : 評価者は、商標が将来(例えば5年間)にわたり生み出すキャッシュフローを予測し、割引率(「価格プレミアム」)を適用して現在価値を算出する、または商標権者が商標のライセンス供与を選択していた場合に受け取ることができたであろう(譲受人が支払を免れた) 理論上のロイヤリティ額(「ロイヤリティ・リリーフ」)に、2%から10%の業界標準のロイヤリティ率を適用して算出する方法。すでに収益をもたらしている商標の価値を評価する際に適しており、一番使用されている評価方法

2) マーケット・アプローチ(市場評価) :評価者は、過去に同じ業種で取引・ライセンスされた類似商標の譲渡事例を分析し、市場平均価格を算定して商標の価値を算出する。商標の譲渡価格が公開されず、価格に関する情報の入手が事実上不可能であるため、ほとんど使用されていない評価方法

3) コスト・アプローチ(コスト評価) : 評価者は、評価者は、調査費、出願費、広告費、マーケティング費、広報費など、商標の創出、出願、宣伝、保護のためにかけた全ての費用を算定し、割引率を適用して商標の価値を算出する方法。まだ収益を挙げていない商標の価値評価で用いられる評価方法

商標の譲渡では一般租税法719条に定められる登録税(droit d’enregistrement)が課され、その税率は以下の通りです:

譲渡価格23,000ユーロ未満:免除
23,000ユーロ以上107,000ユーロ未満:2%
107,000ユーロ以上200,000ユーロ未満:0,6%
200,000ユーロ以上:2,6%

一方、譲渡時点でまだ使用されていない商標の譲渡では、消費税(TVA)のみが課されます。

 

フランスと欧州で特許を取るためには、発明が以下の3つの必須条件を満たす必要があります:

新規性(nouveauté)
発明行為(activité inventive、日本でいう「進歩性」)
産業上の利用可能性(application industrielle)

(知的財産権法L611-10条、欧州特許条約第52条)

発明の新規性は、先行技術(état de la technique)、すなわち(i) 特許出願日以前に行われた、書面または口頭による公表、または公的な使用、(ii) 特許出願日以前にフランス産業財産権庁、欧州特許庁、またはPCT制度で出願された内容(出願日以後に公表される出願も含む)に含まれていたか否かで判断されます(知的財産権法L611-11条、欧州特許条約第54条)。

特許の新規性の判断は、原則として世界中を対象に行われます。従って例えばフランスまたは欧州特許の請求項に記載された技術的特徴のすべてを、同一の構成要素を用いて、同一の方法で配置し、同一の機能を果たす形で開示している日本の特許は、当該フランス、欧州特許の新規性を喪失させる先行技術となります。

フランスの裁判所で直接適用される欧州特許庁の判例によれば、新規性を判断するにあたり、複数の先行技術を組み合わせて、暗黙的な特徴を再構成することすることはできないとされており、請求項の対象となる発明の新規性を喪失させるためには、単一の技術文献または単一の実施形態が、直接的にその発明のすべての要素を開示する必要があります。この点、フランスの破棄院の判例では、発明が先行技術に含まれ、新規性を欠くものとされるためには、その発明が一つの先行技術文献から確実に、それを構成する要素全て、同一の形態、同一の配置、同一の機能、かつ同一の技術的結果を得ることを目的として、完全に含まれ、新規性審査の対象となっている特許の請求項の内容を想起させるものでなければならないという原則があります(破棄院商事部、1996年3月12日判決、上告番号94-15.283号)。

また、請求項の新規性がないというためには、当該事項が、文献に明示されていない暗黙の特徴を含め、一つの先行技術文献から直接かつ明白に導き出されるものである必要があり、暗黙の特徴は、その発明が属する技術分野の通常の知識を有する人(当業者、 « l’homme/la personne du métier »)が全体的な文脈や技術常識に照らして、当然かつ必然的にそこに含まれていると理解する特徴である場合にのみ考慮の対象として認められます。

発明行為(:日本の「進歩性」)は、当業者にとって、その発明が先行技術から自明に導き出されるものであったか否かで判断されます(知的財産権法L611-14条、欧州特許条約第54条)。これは、発明が当該分野の専門家が容易に思いつくことができない革新的な技術的解決策を提供していることを意味するとされています。

フランス産業財産権庁および欧州特許庁では、審査官は「課題解決アプローチ(Problem-Solution Approach)」(WIPOのISPE(国際調査および予備審査ガイドライン)第13章の付属書のオプションA13.08.1)という、以下の3段階の審査方法を採用しています:

1. 「最も近い先行技術」(先行文献または先行製品)の特定、
2. 解決すべき「客観的な技術的課題」を明確化、
3. 最も近い先行技術および客観的な技術的課題を踏まえた場合、請求された発明が当業者にとって自明であったかどうかの検討。

発明が予期せぬ技術的効果(effet technique inattendu)をもたらす場合、あるいは専門家が長年にわたり解決に取り組んできた技術的課題を解決する場合、あるいは長年にわたるニーズに応える場合には、発明行為の要件が満たされると判断される傾向にあります。

従業員の雇用契約に発明が職務として含まれている場合、または従業員が雇用者から委託された研究・調査業務の遂行中に発明を行った場合、その発明は「職務上の発明」(inventions de mission )として雇用主に帰属します(知的財産権法第L611-7条)。

一方従業員が、自分のイニチアチブで、その職務とは関係なく行った発明は従業員本人に帰属しますが、その発明が会社の業務範囲に属する場合、または会社が提供した技術や情報を用いて行われた場合には、「雇用者に帰属されうる職務外発明」(invention hors mission attribuable)とされ、雇用者は当該従業員の発明に関する特許権の全部または一部の所有権もしくは使用権を譲り受ける権利があります。雇用者がこの権利を行使するためには、従業員が発明の申告をしてから4か月以内に権利行使をする旨従業員に通知する必要があります(知的財産権法R611-7条)。

職務上の発明については、使用者は従業員に対して追加報酬を支払う義務があり、その金額は労働協約、企業協定、および個別労働契約に基づいて決定されます。

判例では、職務の範囲内で発明を行った発明者としての従業員が受ける権利を有する追加報酬の額は、その従業員の給与額ではなく、その発明の科学的価値、 実用化の過程で直面した困難、および従業員の個人的な貢献の程度を考慮して決定されるべきであるとされています(破棄院商事部、2000年11月21日判決、上告番号98-11.900)。

雇用者に帰属されうる職務外発明に関しては、従業員の発明に対する帰属権を行使しようとする雇用主は、当該従業員に「適正な対価」(« juste prix »)を支払う義務を負います。この「適正な対価」は従業員が所有する権利の譲渡の対価であるため、その額は職務上の発明で従業員に支払われる追加報酬よりも高額になります。

「適正な対価」の額は、発明に用いられた手段、時間、データに関する従業員、雇用者それぞれの貢献度、発明の産業上および経済的な有用性(特許の使用許諾で得られるロイヤリティや特許で保護される発明を使った製品の販売で得られる経済的利益等)を考慮して決定されます。判例では、「適正な対価」の額は雇用主が帰属権を行使した日を基準に評価されるが、発明の将来の価値を反映するよう、帰属権を行使した日以降の要素も考慮に入れることができるとされています(破棄院商事部、2013年7月9日判決、 上告番号12-22.157号(当初雇用主が設定した70000ユーロの対価に代わり320 000 ユーロと利息の支払いが雇用者にに対し命じられた案件)。

追加報酬や適正な対価の額に関し、雇用者と従業員が合意に至らない場合には、フランス産業財産権庁の内部機関である全国従業員発明委員会(CNIS)(知的財産権法L615-21条)に当事者の一方が係争を付託し、同委員会で調停が成立しない場合には、地方裁判所で訴訟を提起します。従業員は本案訴訟に先立ち、民事訴訟法第145条で定められたレフェレの手続で地方裁判所の裁判所長に司法鑑定を命じるよう請求することが可能です。

職務上の発明を行った従業員による追加報酬の支払請求訴訟は、労働法第3245-1条に定める3年の時効が適用され、一方雇用者に帰属されうる職務外発明の適正対価の支払請求権には、民法の一般規定である5年の時効が適用されます(民法第2224条)。

職務上の発明、雇用者に帰属されうる職務外発明いずれの場合でも、雇用者は特許を出願する際に発明者として従業員の氏名を記載する義務があります(知的財産権法L611-9条)。

特許権の消尽 (épuisement des droits) の原則とは、特許で保護されている発明を使った製品が、特許権者により、または特許権者の承諾のもとでフランスまたはEU域内の市場に投入された場合、特許権者は当該製品について権利を行使することができなくなることを指します(知的財産権法L613-6条、統一特許裁判所に関する協定第29条)。特許権の消尽によって特許権者はその製品の自由な流通を禁止することはできなくなるため、その製品の買主は特許権侵害の責任を問われることなく自由にその製品を使用、貸与、または再販売することができます。

この特許権消尽の制度は、特許権者が自ら製品を販売した(または販売に合意した)後で無期限に特許権を行使することを防ぎ、商品の自由な流通(欧州連合の機能に関する条約第34条、第36条)を促進する目的で制定されたもので、特許権者の合意なく違法に製品が市場に出回った場合には適用されません。また、特許権の消尽は市場に投入された製品に関する特許権の消尽であり、製品に使われた発明の特許権そのものの消尽ではないため、当該発明を利用する別の製品が特許権者の許可なく製造、販売された場合には、特許権者は、製造者及び販売者に対して特許権侵害訴訟を提起することができます(破棄院商事部、2006年4月25日判決、上告番号04-15.995号)。

特許権者は、特許権の消尽を回避するために販売契約書の中に転売や仕様の範囲を制限する条項を盛り込み、契約違反の場合に特許権を行使することができるようにすることを希望する傾向がありますが、そのような条項がEUの基本原則である商品の自由な流通の原則に反する反競争的行為として解釈されないよう注意を払う必要があります。販売代理店との契約書の中で商品の並行輸入・並行輸出を制限する条項を入れると、欧州連合の機能に関する条約(TFEU)第101条の違反とみなされ、最高世界売上高の10%に相当する課徴金が科されることがあります(欧州委員会、2024年5月23日、モンデリーズ事件、 AT.40632、3億3,750万ユーロ(約570億円)の課徴金)。

パリ地方裁判所の裁判所長(専属管轄権、司法組織法第D211-6条)のもとで知的財産権法L615-3条に基づき緊急措置を命じるよう請求することができます。

そのためには、まず訴訟権者としての資格(特許権者または独占的ライセンシーとしての立場)をフランス産業財産権庁の国内特許登録簿または欧州特許庁の欧州特許登録簿から立証する必要があり、また独占的ライセンシーの場合は、特許権者に対し侵害行為を止めさせる手続を取ることを請求する書簡を書留郵便で送り、特許権者が訴訟を提起しなかったことを証明する必要があります。

知的財産権法L615-3条に基づく緊急措置は、特許権侵害が既に発生している場合だけでなく、侵害が侵害が間もなく発生しようとしている場合にも認められます。

侵害行為の証拠を得るために一番効果的である、侵害被疑品の差押手続(saisie-contrefaçon、知的財産権法L615-5条)の請求は、弁護士を通じて専属管轄権を有するパリ地方裁判所の裁判長のもとで行い、申立書を証拠書類と共に提出します。手続は非対審であるため、被疑侵害者に通知する必要はありません。裁判長は原告の訴訟資格と損害行為の有無を確認し、請求を認める場合には「申立に基づく命令」(ordonnance sur requête)の形で、執行官(huissier/commissaire de justice)による侵害被疑品差押手続と認める決定を下します。

侵害被疑品差押手続で執行官が把握・確認した事実に基づき、レフェレの手続でパリ地方裁判所裁判所長に緊急措置を請求する原告の訴状を被疑侵害者に対して通達します。

また並行して、侵害被疑品差押手続から20営業日または31暦日(いずれか長い方)以内に、パリ地方裁判所で特許権侵害差止と損害賠償を請求する本案訴訟するか、またはパリ地方裁判所の検察官に特許権侵害を理由とする告訴状を提出する必要があり(知的財産権法R615-6条)、この義務を怠ると侵害被疑品差押手続は無効となります。

レフェレの手続で裁判所長は、後日特許権侵害訴訟で原告の請求が棄却された場合、または緊急措置が取り消された場合に、被告の損害賠償を確実にするため、原告に一定の額を裁判所に寄託することを緊急措置を命じる決定の中で命じることができます。

侵害被疑品差押手続を事前に行わずに緊急措置の申し立てを行った場合には、侵害被疑品差押手続を行った場合と同様、レフェレの決定が下されてから20営業日または31暦日(いずれか長い方)以内に、パリ地方裁判所で特許権侵害差止と損害賠償を請求する本案訴訟するか、またはパリ地方裁判所の検察官に特許権侵害を理由とする告訴状を提出する必要があり(知的財産権法R615-3条)、この義務を怠ると被告の請求によりレフェレの決定で命じられた緊急措置が取り消されます。

フランスを指定する従来の(単一効果のない)欧州特許の権利者(または独占的実施権者)は、2030年5月31日までの統一特許裁判所(JEB)の移行期間中、パリ地方裁判所で特許侵害差止請求訴訟を提起することができます。

欧州特許の権利者がフランスの裁判所の管轄権を選択するためには、欧州統一特許裁判所(JUB)の公式ポータルサイトの「Case Management System」(CMS)ページから、統一特許裁判所の管轄権からの除外(「オプトアウト」)を申請する手続を行う必要があります。

欧州統一特許裁判所(地方・地域部門)における特許侵害訴訟手続にかかる期間は約1年で、フランスの地方裁判所における特許侵害訴訟手続にかかる期間(約2年)よりはるかに迅速です。
また訴訟で勝訴した場合、判決が欧州統一特許裁判所に関する協定の加盟国18か国全てに効力が及ぶというメリットがあります。
ただし被告の被疑侵害者が特許の無効を請求する反訴請求を行い、それが万一認められた場合には加盟18か国全てで特許が無効になるというリスクがあります。

パリ地方裁判所での特許権侵害訴訟手続では、欧州統一特許裁判所での手続と違って長年の判例が確立されており、裁判の見通しについて高い予測可能性が得られるというメリットがあります。

訴訟費用に関しては、パリ地方裁判所での特許権侵害訴訟手続では裁判所に支払う費用は50ユーロ(印紙代)のみであるのに対し、欧州統一特許裁判所での特許権侵害訴訟手続では裁判所に14,600ユーロ(プラス係争額に応じて追加金額)を払う必要があります。フランスの弁護士は統一特許裁判所のすべての部門で訴訟代理が可能ですが(統一特許裁判所に関する協定第48条)、同裁判所での手続の特殊性により、弁護士費用はパリ地方裁判所での手続より高額になる傾向があります。

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