フランス民法の判例

美容形成手術におけるインフォームドコンセントと賠償責任

(破棄院第1院、2014年2月5日判決、上告番号12-29140)

フランスで医師の患者に対する情報提供義務、インフォームドコンセントは民法第16-3条で規定されており、医師は治療行為に先立って、患者が意思を表明できない状態である場合を除き必ず治療行為についての合意を得なければないとされている。

医師が治療行為に先立って患者に提供する義務がある情報の内容については厚生法第L 1111-2条以下で詳しく規定されており、以下の条件を満たさなければならない。

  • 全ての患者に対してその健康状態について説明すること。
  • 医師は患者に対して提案する様々な診療、治療、予防行為に関する情報、その必要性、場合により緊急性、及び治療や予防行為の予後と予見しうるリスク、そして可能な代替措置、提案する治療や予防行為を行わない場合の危険性について説明すること。
  • 患者が合意した診療、治療、予防行為が行われた後で新しいリスクが発生した場合にはそのリスクに関して説明すること。
  • 全ての医療関係者がこの情報提供義務を果たすこと。
  • 患者への情報提供は患者との個別の面談で行うこと。
  • 患者が診療、治療、予防行為について合意していたか否かについて係争が生じた場合には、医療関係者が、本条に規定された条件に沿って自らの情報提供義務を果たしたことを証明する義務がある。

患者のインフォームドコンセントについての証明義務は患者ではなく医師にあるとされている。従って患者が合意しなかった診療、治療、予防行為で損害を受けた場合には、医師が必要な情報を与えなかったことを証明する義務はない。訴えられた医師が厚生法第L 1111-2条に定められた義務を果たしたことを具体的な証拠を挙げて証明する義務がある。

医師は全ての患者、すなわち入院しているか否か、フランス人か否か、フランス語を話すか否かに関わらず本条の情報提供義務を患者本人に対して(本人が意思を表明できない状態である場合を除き)果たす必要がある。

さらに医療倫理法(Code de déontologie médicale)第35条では、この情報は「わかりやすく」「適当」で「誠実」なものでなければならないとされている。すなわち医師が患者に与える情報は、その患者が理解することができるもの、患者の知的水準や社会レベルに応じたものである必要がある。従って外国人でフランス語が母国語でない患者に対しては、医師はその患者が理解することができる言語で情報を提供し、患者が与えた情報を理解したことを注意して確認しなければならない。

また医師は情報提供義務を単に医療行為についてだけでなく、医療費についても負うことが法律で定められている。厚生法第L 1111-3条は以下のように規定している。

  • 医療費が政令で定められた社会保険の負担率を超える場合には、医師は医療行為に先立って必ず患者に対し、書面で医療費についての情報を与えなけなければならない。

医師の患者に対する情報提供義務は、美容整形手術においてはより強化されている。判例では、美容整形手術では医師は患者に対して単に予見しうるリスクだけでなく、手術の結果として発生する全ての影響について説明する義務があるとされている。

厚生法は第L 6322-2条は美容整形手術における医師の患者に対する情報提供義務について特別の原則を規定している。

  • 全ての美容整形手術において、医師は患者又はその法定代理人に対して手術の方法、リスク及びその予後と影響について情報を与えなければらない。
  • 医師は患者に情報を提供するにあたり、詳しい費用の見積書を患者に渡す義務がある。この見積書の提出から施術までは政令で定める最低の熟慮期間を置かなければならず、この熟慮期間の間は医師は患者から施術前の診療費用を除いていかなる報酬も受け取ってはならない。

美容整形手術で医師が患者に情報と見積書を提供してから施術まで置かなければいけない熟慮期間は厚生法第D 6322-30条により15日とされている。

医療行為により患者が損害を受けた場合、医療過誤に関しては、2002年3月4日の法律で医師は過失を犯した場合にのみその診療、予防、治療行為について損害賠償責任を負うという原則が厚生法第L 1142-1 I条で規定されている。
従って医療過誤における医師の責任は不法行為責任として、医師を訴える患者は単に自分が受けた損害を証明するだけでなく、医師の過失と、自分が受けた損害と過失との間の因果関係を具体的な証拠を持って証明しなければならない。

医師がその医療行為において過失を犯した場合には患者またはその遺族は医師本人とその保険会社から、医師が過失を犯さなかったが医療行為中の事故で患者が損害を受け、その損害が診療、予防、治療行為から発生したものである場合には、患者またはその遺族は国から受けた損害の賠償を受けることができる(厚生法第1142-1 II条)。後者の場合に患者に賠償を行う機関は「フランス医療事故損害賠償委員会」(Office national d’indemnisation des accidents médicaux、ONIAM)である。

本件では、脂肪吸引の手術のためにパリの外科手術センターに入院した女性が、手術の麻酔前に患者の気分を安定させるために投与された二つの睡眠薬により心臓発作を起こし死亡した事件で、遺族が手術担当の外科医と麻酔科医に対し損害賠償訴訟を提起したものである。

パリの控訴院は2012年10月5日の判決で、外科医と麻酔科医が亡くなった患者に対し睡眠薬の副作用について十分に情報を提供しなかったとして、患者が死亡という損害を回避することができなかったことについて30 %寄与したとし、死亡自体が睡眠薬によるもので医師達の過失によるものでなかったことから、遺族が受けた損害の残り70 %の支払をフランス医療事故損害賠償委員会ONIAMに命じた。

フランス医療事故損害賠償委員会ONIAMは同判決に異議を申し立てる上告を行い、美容形成外科手術は治療を目的とするものではないため厚生法第1142-1 II条にいう「診療、予防、治療行為」には該当しないと主張したが、破棄院は美容形成手術における診療、予防、治療行為も厚生法第1142-1 II条にいう「診療、予防、治療行為」に含まれるとして、ONIAMの上告を却下した。

本判決は美容形成外科手術における医療過誤について患者が受けることができる損害賠償の範囲を広げたものである。