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社員の著作権と著作権譲渡契約の重要性

フランスでは「著作権は職務上製作された作品、職務外で制作された作品を問わず創作の時点でその作者である社員のみに帰属し、法人である企業は著作者とはなりえない」、というのが原則である。フランスでは「職務著作」の場合にも、会社が社員の著作物を使用しようとする場合には、社員に給料とは別の報酬を支払って著作権の譲渡を受けなければならない。さらに、社員の著作者人格権を侵害することのないように注意して譲渡された著作権を使用しなければならない。著作権譲渡の対価は、著作物を使用した商品の売上高に比例した率の報酬でなければならず、一括報酬はごく例外的な場合を除いて禁止されている。

フランス語で著作権は“Droit d’auteur”(「著作者の権利」)という。この語からもわかるように、フランスの著作権は著作者の権利を主体においた観念である点で、著作者よりも著作物に重点が置かれているアメリカ・イギリス式の“Copyright”(「印刷物の権利」)とは観念を異にし、英米法やそれを受け継いだ日本法とは違った、特有の法制度が設けられている。

以下、フランスの著作権法の原則と判例、フランスの企業で社員の著作物を企業が利用するための著作権譲渡契約の書き方について紹介する。

● フランス著作権法の原則

フランス著作権法の最初の条文は、以下の原則を謳っている:

「精神的著作物の作者は、その作品について、創作の事実のみにより、排他的かつすべての者に対して主張しうる無体財産権を享受する。この権利は知的、精神的な性質及び財産的な性質を持つ。精神的著作物の作者が役務提供契約を有しているまたは締結していることは、1項で規定された権利を享受するにあたりいかなる制約も与えない(フランス知的所有権法L111-1条)。」

フランス法で法人が著作者(l’auteur)となることができないのは、著作者とは精神的著作物(œuvre d’esprit)の作者であり、法人は作品に反映されている精神を持ちえないからである。著作権は著作財産権(droits patrimoniaux)と著作者人格権(droit moral)からなるが、“心情”(moral)を持たない法人が著作権の主体となることはできない、したがって法人は著作者の資格を持つことができない、著作者がその法人と雇用関係にあっても関係ない、というのがフランス著作権法の原則である。この点で著作者である社員がその職務内で行った発明は会社に帰属するとする、特許権法上の職務発明と異なる。

著作者たりえない法人は著作者から著作権を譲り受けることによってはじめて、著作権の所有者(titulaire des droits d’auteur)となることができる。ただし著作権の譲渡を行うためには、必ず著作権譲渡契約を結ぶことが必要であり、また著作権譲渡契約は一定の条件を満たしていなければならない。

フランス著作権法では、ソフトウェアの著作物と団体名義の著作物(œuvre collective=団体名義で公表される著作物、辞書や百科事典など)にかぎり、著作権譲渡契約がなくとも著作者の著作権はそれを公表する法人に自動的に譲渡されるという特則が設けられている。しかし、それ以外の著作物に関してはすべて、企業が社員の職務上創作した著作物を企業の名で活用するためには、労働契約と別個の著作権譲渡契約を結ぶか、あるいは労働契約の中で詳細な著作権譲渡に関する条項を規定する必要がある。
企業が社員と著作権譲渡契約や詳細な著作権譲渡に関する条項を含んだ労働契約を交わさず、社員の著作物を企業の名で公表・使用した場合、著作者である社員は会社を著作権侵害で訴え、損害賠償を請求することができる。また、企業が著作権譲渡契約を結ばずに、社員が創作したデザインを企業の名前で意匠として登録した場合には、社員はその意匠の所有権を取り返す訴え(フランス知的所有権法L511-10条)または登録の無効の訴え(フランス知的所有権法L512-4条)を提起することができる。

では、企業が安心して社員の創作した著作物を会社の名前で活用し、利益を上げていくためにはどのような形で社員の著作権譲渡を取り決める必要があるのであろうか。

● 著作権譲渡契約に関するフランス法の原則

フランス著作権法は以下のように規定している:

「著作権の譲渡を行うためには、譲渡される個々の権利が譲渡契約で別々に規定されていなければならず、譲渡される権利の使用分野についてその範囲と目的、地域及び期間が規定されている必要がある(フランス知的所有権法L131-3条)。」

この条文は厳しく適用され、譲渡されることが契約上明記されなかった権利はすべて著作者である社員のみが使用する権利を有し、会社には移らない。

また、フランス著作権法は以下のような規定を含んでいる:

「将来製作される著作物に関する包括的な著作権譲渡は無効である(フランス知的所有権法L131-1条)。」

日本のデザイナーや雑誌記者の労働契約にしばしば見られるような、「社員がその職務において / 雇用契約の期間中製作する作品の著作権はみな雇用者に帰属する」といったような契約の条文は、フランスでは全く効力を持たない。このような条文が契約に盛り込まれた場合には、著作権譲渡は取り消される。

さらに、フランス著作権法は次のように定めている:

「著作権譲渡契約には、著作者に対して販売または使用から得られる利益に比例した対価が定められなければならない(フランス知的所有権法L131-4条)。」

こういった著作権法上の原則を踏まえると、フランスで企業が社員の職務上作成した著作物の著作権を譲り受けるためには、以下の点に注意して著作権譲渡契約(または著作権譲渡を規定する労働契約)を作成する必要がある。

● 社員の著作物を企業が利用するための著作権譲渡契約 (または労働契約上の著作権譲渡に関する条項)の書き方

1) 譲渡される個々の権利を譲渡契約で別々に規定すること

例えば、著作権譲渡契約の中で著作物の複製権(droit de reproduction)だけが規定されている場合には、複製権しか譲渡されず、暗黙的に作品の展示・上演・伝達権(droit de représentation)や翻案権(droit d’adaptation)の譲渡が含まれることはない。

例 :
社員がデザインしたある商品を会社がすべての広告媒体において複製する権利の譲渡を定める条項が労働契約に規定された場合、会社がその商品をテレビCMで用いると、社員の著作権侵害となる。作品をテレビでの放映で使うためには伝達権の譲渡が必要だからである(破棄院民事第1部1979年12月18日判決)。

2) 譲渡される著作権を使用する分野の範囲と用途を明確に定めること

例 :
社員が会社に対し、その創作したデザインの複製権と展示権を会社の2,000個の商品について譲渡する契約が結ばれた場合、会社がその商品を5,000個販売すると、著作権侵害となる(パリ控訴院、1993年6月10日判決) 。

例:
新聞社の社員である記者の記事について、紙の媒体についての複製権と伝達権の譲渡が契約で定められた場合、新聞社がそのウェブサイトで同記者の記事を用いた場合には、著作権侵害を構成する。

例:
雑誌社の社員である写真家が会社に対し、撮った写真の複製権と展示権を百科事典で用いるために譲渡する契約が結ばれた場合、会社が百科事典のCD-ROM版でその写真を使用すると著作権侵害となる (パリ控訴院2001年12月12日) 。

従って、社員の著作物の用途や著作物を用いた商品の販売個数がはじめに予定していたよりも増えるような場合には、必ず契約変更書を作り、著作権の使用分野と範囲を新しく定めることが必要である。

3) 著作権譲渡の対象となる地域を規定すること

契約上で著作権譲渡の対象地域を“すべての国”(tous pays)または“世界中”(le monde entier)とすることは有効であるが、対象地域についての規定を欠く著作権譲渡契約は無効である。

4) 著作権譲渡の期間を限定すること

フランスでは著作財産権の保護期間は著作者の生存期間及び死後70年である。著作権譲渡の効果をこの最大期間まで及ぼすためには、契約中にその旨明記されなければならず、期間を定めない著作権譲渡契約または期間を無限とする著作権譲渡契約は無効となる。

例:
雑誌社の社員がその作成する記事や写真、絵の複製権と伝達権を譲渡する契約中に、「将来無限の出版について」譲渡が規定されていた場合、契約は無効 (パリ大審裁判所2002年12月6日判決) 。

5) 商品の売上高に応じた著作権譲渡の対価を定めること

労働契約上定められた、社員の労働の対価としての給料は、フランスでは著作権譲渡の対価をなさず、必ず給料とは別途の著作権譲渡のロイヤリティ(redevances)が定められる必要がある。ロイヤリティについて規定のない契約は著作権譲渡契約をなさない。

フランス著作権法では、このロイヤリティは原則として著作権使用の利益に応じた一定率でなければならないとしており、判例は「『著作権使用の利益』とは『消費者に対する商品の価格(prix de vente au public)x売上個数』でなければならない」という原則を打ち出している。例外的に、売上高に応じたロイヤリティを定めることが不可能な場合には、一括のロイヤリティの額を定めることができる。しかし、適用されるのは企業が無料で配布する広告に社員の製作した写真や記事を載せる場合などに限られる。

ロイヤリティの額は当事者間で自由に定めることができるが、会社が雇用者の立場を利用して社員に対して低すぎる率のロイヤリティを押し付けたような場合には、その条項は裁判所により無効とされ、その業界で一般的に適用されているロイヤリティに変更される。
一般的に、出版、デザイン、写真の分野では、「売価x売上個数の8%-10%」がフランスにおける著作権譲渡のロイヤリティの相場である。これより著しく低いロイヤリティが著作権譲渡を定める労働契約中で定められた場合や、商品の売上高ではないロイヤリティの算定基準が設けられた場合には、社員は裁判所に契約の改定を請求する。

例:
出版契約について売上高から税金と諸費用を除いた出版社の純利益をロイヤリティの算定基準とする著作権譲渡契約は無効 (破棄院民事第1部1996年1月9日判決) 。

● 著作者人格権についての注意

著作者人格権は一身専属性を持つので、著作者である社員のみのものである。著作権譲渡契約で譲渡できるのは著作財産権だけであり、会社が著作物について氏名表示権や同一性保持権を行使することはできない。会社は社員の著作権を使用するにあたり社員の著作人格権を尊重しなければならない。例えば、社員の著作物を用いた商品に「© (会社の名前)」を入れて販売することは、たとえ複製権や展示権の譲渡契約が結ばれていたとしても、社員の氏名表示権の侵害となる。フランスでは著作者人格権は永久の権利であり、著作権譲渡契約で定められた期間が経過し、社員の創作した作品がパブリック・ドメインとなった後も、会社はその作品を使用する際に著作者たる社員の名前を表示する義務がある。

例:
服飾会社の社員が創作したデザインを使用したTシャツに、社員の合意なしにその名前と無関係のブランドを入れて販売する行為は、著作者人格権の侵害となり、会社は社員に対し損害賠償を支払わなければならない (パリ控訴院2005年2月16日、破棄院民事第1部2006年11月21日判決) 。

こうしたトラブルを避けるために、会社は、社員が著作者人格権の行使を放棄する条項を著作権譲渡契約の中で規定することができる。たとえば、社員はその氏名表示権を主張しない、とする条項である。こうした条項が契約中に含まれる場合には、会社は社員の著作物を使用した商品を社員の名前を入れずに販売することができる。

一方、著作権譲渡を定めた労働契約中にそのような規定がなく、会社が著作者人格権を侵害して著作物を使用した場合には、社員は会社の契約違反を理由に労働契約を解除し、不当解雇と同じ条件で補償金(最低6か月分の給与に相当する額)と損害賠償の支払いを請求することができる(パリ控訴院2008年5月29日判決)。

このようなフランスにおける著作者社員を保護し、雇用者に対する著作権譲渡の範囲と期間を制限するフランス著作権法上の原則は、一見企業にとって経済的に大きな不都合があるように思われるかもしれないが、こうした法的風土の中でこそ、パリでは社内クリエーターの創作意欲が向上し、大きなブランドで働いたクリエーターが次々独立して自らの創作を新しいブランドとして立ち上げたり、大きな雑誌社で働いた写真家が自らのエージェンシーを設立したりして、芸術の都を豊かにすることができている。

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