民事訴訟法の改正

- 民事訴訟法の歴史
1. 裁判所組織の改正
2. 係争額の低い案件で裁判外の紛争解決手続を行う義務
3. 弁護士による訴訟代理の一般化
4. 案件の非受理が裁判所により宣告される手続の変更
5.「緊急本案訴訟手続」
6. 第一審判決の執行力の一般化
7. 離婚訴訟手続の改正

 

民事訴訟法の歴史

フランスの民事訴訟*に関する法律は以下の法典に規定されている:

  • 訴訟手続:民事訴訟法典 (Code de procédure civile)
  • 執行手続:民事訴訟執行法典 (Code des procédures civiles d'exécution)
  • 裁判所の組織と構成、管轄権:司法組織法典 (Code de l’organisation judiciaire)

現行の法典編纂までの経緯

  • 1806年 : ナポレオン一世の主導のもと*、フランスで初の民事訴訟法典が編纂
  • 1975年 : 新民事訴訟法典 (Nouveau Code de procédure civile, NCPC) の制定、旧民事訴訟法典は並行して存続(政令第75-1123号)
  • 1978年:司法組織法典の制定 (政令第78-329 号、第78-330号)
  • 2007年 : 旧民事訴訟法典の廃止、新民事訴訟法典を民事訴訟法典 (Code de procédure civile, CPC) に改称**
  • 2011年:民事訴訟執行法典の制定(政令第2011-1895号)
  • 2019年:民事訴訟法典と司法組織法典の改正(法律第2019-222号)

*フランスで「ナポレオン法典」とは、ナポレオン一世の主導のもと複数の法律家により編纂された5つの法典(民法典、民事訴訟法典、商法典、刑事訴訟法典、刑法典)を指す。

**新民事訴訟法典の規定は1971年から1973年の間に交付された4つの政令で定められ、1975年12月5日のデクレにより新民事訴訟法典としてまとめられた。

2019年3月23日に制定された「司法組織の2018-2022年の予定と改革に関する法律」 第2019-222号とその施行令によって、民事訴訟法典と司法組織法典が改正され、フランスの司法組織の構成と民事訴訟の手続が大きく変わった。訴訟の当事者にとって重要な改正は以下の通りである。 

 

1. 裁判所組織の改正

民事訴訟法の改正前、第一審の裁判所は訴訟で争われている金額と争いの対象分野により、以下のように管轄が決められていた:

①係争額による一般管轄権

• 係争額が10000€を超える案件=> 大審裁判所 (tribunal de grande instance, TGI)
• 係争額が10000€以下の案件=>小審裁判所 (tribunal d’instance, TI)

②係争の分野による専門管轄権

• 商事賃貸借、不動産、家族法、知的財産権、相続、誹謗中傷、身体的損害=> 大審裁判所
• 住居賃貸借、法定後見、ローン(住宅ローン以外)関連訴訟=>小審裁判所

2019年3月の民事訴訟法の改正により、大審裁判所と小審裁判所が「司法裁判所」 (tribunal judiciaire) として新しく統合された。

改正前、大審裁判所はフランス内に164、小審裁判所は307あったが、小審裁判所のみが置かれていた中小規模の市町村では、小審裁判所は「近隣裁判所」« tribunal de proximité »と改称され、司法裁判所の下部組織となった (司法組織法典第L 212-8条)。

パリで2019年3月の改正後、それまで20の区役所にそれぞれ置かれていた小審裁判所とシテ島にあった大審裁判所が、統合されて17区の新しいPalais de justice に「司法裁判所」(tribunal judiciaire)として移転した。

2019年3月の民事訴訟法の改正ではまた、かつて小審裁判所が専属管轄権を持っていた分野の案件を担当する新しい「保護のための係争裁判官」 (« juge des contentieux de la protection » 、JCP) という判事ポストを司法裁判所に創設した (司法組織法典第L 213-4-1条以下) 。

 

2. 係争額の低い案件で裁判外の紛争解決手続を行う義務

 

フランスはドイツなどの近隣EU諸国に比べて司法予算が低く、裁判官の数に比べて事件数が多すぎるため、審理期間が長期化したり判決内容が悪くなることが問題となっている 。

裁判外の紛争解決手続(ADR)を促進して裁判所に付託されている事件数を減らすため、2019年3月の民事訴訟法の改正以後、以下の「小さな」案件において、原告が調停、仲裁、交渉などの裁判外紛争解決手続のいずれかを提訴する前に行うことが義務づけられている。

  • 近隣紛争
  • 5.000 €以下の係争額の案件
  • 住居立退請求
  • 債権の一部支払い請求のレフェレ(référé-provision )
  • 支払催告

この義務には例外があり、以下の場合には原告は裁判所に提訴する前に裁判外紛争解決手続を踏まなくてよいとされている :

1) 当事者の一方が当事者の合意の認可を裁判所に求める場合
2) 決定を下した機関に対する提訴前の義務的な異議申立手続が法律で定められている場合 (行政機関の決定に対する異議申立手続など)
3) 裁判外紛争解決手続を取らなかった正当な理由がある場合。この正当な理由は以下の場合に成立する:
- 明らかに緊急な事情がある場合
- 司法調停人の都合がつかず、案件の性質と係争内容からして合理的な期間内に第一回目の調停会議を開くことができない場合
4) 管轄の裁判所や行政機関が和解の試みを行うことが法律で定められている場合

裁判外紛争解決手続は訴訟の提起と同様、時効を停止する。時効が停止するのは調停や仲裁手続を行う合意が当事者間にある場合にはその合意日から、書面の合意がない場合には第一回目の調停、仲裁会議の日から、当事者または調停人、仲裁人が調停や仲裁手続が終了したと宣言する日までである 。裁判外紛争解決手続が終了した後は再度時効が起算され、原告は時効が経過する前に訴訟を提起しなければならない。

 

3. 弁護士による訴訟代理の一般化

司法裁判所

2019年3月の民事訴訟法の改正で大審裁判所と小審裁判所が統合されて司法裁判所になったことにより、大審裁判所での手続で弁護士による訴訟代理義務を定めていた民事訴訟法の規定が変更された。

同改正で新しく制定された民事訴訟法760条 は、「司法裁判所の手続において当事者は例外が法律で規定されている場合を除き弁護士に代理されなければならない」と規定している。

民事訴訟法の改正前は、フランスでは大審裁判所における急速手続であるレフェレ(référé)や非対審的請求手続(requête)では弁護士による代理が義務的ではなかったため、当事者が自ら裁判手続を行うことができたが、改正後は以下の例外に該当する場合を除き、当事者はら裁判手続を行うことはできず、弁護士の訴訟代理を受けなければいけないとされている (民事訴訟法761条):

1) 保護係争裁判官 (juge des contentieux de la protection、前述)が管轄する事件;
2) 司法組織法第R. 211-3-13 à R. 211-3-16, R. 211-3-18 à R. 211-3-21, R. 211-3-23 条で規定されている案件 (* 選挙の有効性に関する訴訟) ;
3) 係争額、または支払いを請求する債務額が10000€以下の案件

一方司法裁判所が専門管轄権(前述)を持つ分野の案件は、係争額がいくらであっても弁護士による代理が義務づけられている。

フランスの司法裁判所における訴訟代理では、« postulation »と呼ばれる弁護士の地域管轄の規則があり、裁判所に案件を付託したり、訴状や証拠書類を提出する手続は、必ず裁判所がある都市の弁護士会に登録している弁護士に依頼しなければならない。

パリではパリ近郊の都市の地域管轄をパリ弁護士会に登録されている弁護士が持つため、一人の弁護士が訴訟手続を全て行うことができるが、地方都市の司法裁判所における訴訟手続では、その都市の弁護士を手続弁護士として別途立てる必要がある。

商業裁判所

商事裁判所での訴訟ではかつて当事者が自ら裁判手続を行うことが認められていたが、2019年3月の民事訴訟法の改正で以下の例外に当たる場合を除き、弁護士による代理が義務づけられている(民事訴訟法第853条) :

1) 係争額、または支払いを請求する債務額が10000€以下の案件
2) 商法第4節で規定されている案件 (会社の破産、更生手続) ;
3) 商業登記簿上の記載に関する案件

 

商事裁判所での訴訟手続では司法裁判所での訴訟手続のような弁護士の地域管轄の規則がないので、地方都市の商事裁判所でもパリの弁護士が訴訟手続を行うことができる。

 

特殊な訴訟手続

2019年3月の民事訴訟法の改正以後、以下の案件で弁護士による代理が義務づけられている:

  • 商事賃貸借の賃料に関する案件 (商法第R145-23条以下)
  • 離婚補償金の額の変更請求と親権喪失請求に関する家族事件 (民事訴訟法第1139、1140、1203 条)
  • 課税処分に関する案件 (租税訴訟法第R 202-2 et R 202-4 条)
  • 執行判事 (判決の執行手続を監督する裁判官) のもとでの手続、ただし住居立退き請求と支払を請求する債務額が10000€以下の案件を除く。

 

4.案件の非受理が裁判所により宣告される手続の変更

フランスの民事訴訟法では、訴訟の原告に当事者資格がない、請求する事柄が時効にかかっている、すでに裁判の判決が出ている、などの理由で裁判所に付託された案件が裁判所に不受理となる場合を、 « fins de non-recevoir »と呼ぶ (民事訴訟法第122条)。

2019年3月の民事訴訟法の改正前は、被告は原告の請求が « fins de non-recevoir » のため不受理であることを、本案訴訟の訴状の中で裁判所に請求することができた。

2019年3月の民事訴訟法の改正以後、 « fins de non-recevoir » は訴訟手続で予審 (« mise en état » : 口頭弁論前の当事者間の訴状と証拠書類のやり取り) を監督する予審判事 (juge de la mise en état, JME) が専属的に管轄することになった(民事訴訟法第789条) 。

実務上、弁護士は« fins de non-recevoir »を理由に相手方の請求の不受理を裁判所に請求する場合には、予審判事のもとで付随訴訟 (procédure incidente) を本案訴訟と別途に提起して、付随訴訟の訴状の中で相手方の請求の « fins de non-recevoir » を証明し、不受理を請求しなければならない。

請求の « fins de non-recevoir » を審理するために請求内容を審理する必要がある場合には、予審判事は付随訴訟の判決の中で請求の « fins de non-recevoir » と請求内容について決定を下すことができる。

当事者の一方が予審判事が請求内容について決定を下すことに反対する場合には、予審判事は案件を本案訴訟を管轄する裁判所に移管し、裁判所が請求の « fins de non-recevoir » と請求内容について決定を下す。

決定は予審判事が下す場合には「予審判事の決定」( « ordonnance de mise en état »)、裁判所が下す場合には「判決」(« jugement »)となり、請求の« fins de non-recevoir »に関する決定と請求自体に関する決定が分けて記載される。

予審判事は2019年3月の民事訴訟法の改正以前から、手続の無効や違反(« exceptions de procédure »、案件が管轄権のない裁判所に付託された場合など)、及び手続の終了事由(当事者の和解や請求の取り下げ、当事者一方の死亡等)について専属的に管轄していたが、今回の改正で請求の不受理についても専属的に管轄することになったことにより、権限が拡大された。« fins de non-recevoir » のため不受理である案件を裁判手続のできるだけ早い段階で終わらせ、裁判所に付託されている事案数をできるだけ少なくすることが目的である。

 

5. 「緊急本案訴訟手続」

これまでフランスの民事訴訟法では、本案訴訟で権利義務の審理が必要だが緊急性がある場合に、一定の分野でレフェレと同じ法廷で裁判長の決定を得る「レフェレ形式の本案訴訟」(« procédure en la forme des référés »)という手続が定められていた。

2019年3月の民事訴訟法の改正では「レフェレ形式の本案訴訟」が廃止され、「緊急本案訴訟手続」 (« procédure accélérée au fond ») として新しく制定された(民事訴訟法第481-1条) 。

 

この手続が認められるのは、特に不動産の共同所有権や遺産相続に関する案件で緊急に権利義務関係について裁判所の決定を下す必要がある場合である(民事訴訟法第1380条)。

 

6. 第一審判決の執行力の一般化

2019年3月の民事訴訟法の改正前は、第一審裁判所の判決に当事者の一方が控訴をする場合には、控訴院で判決が確定されるまで判決の執行が停止され、判決の仮執行 (exécution provisoire) が命じられている場合にのみ第一審の判決を執行できるというのが原則であったが、2019年3月の民事訴訟法の改正により、第一審の判決は原則的に仮執行力があるという新しい規則が打ち出された(民事訴訟法第514条) 。

例外的に案件の性質から判決の仮執行が不可能な場合には、判決文にその旨明記される(民事訴訟法第514-1条)。

2019年3月の民事訴訟法の改正前から、第一審で敗訴した当事者が判決に控訴を行う場合には、控訴院の院長のもとで第一審判決の仮執行を停止するよう請求することができたが、2019年3月の民事訴訟法の改正により請求が認められるための条件が厳しくなり、第一審判決が控訴で覆される可能性が大きいことのほかに、第一審判決の仮執行が重大な結果をもたらすという事実が、判決後に明らかになったことを証明する義務が加えられた。

例えば多額の損害賠償の支払いを命じる判決に対して控訴を行い、支払い義務の仮執行停止を控訴院院長のもとで請求する場合には、支払いを執行すると債務者にとって重大な影響をもたらすという事実が判決後に明らかになったものでなければならない。判決後に突然解雇されたなどという特別な状況がない限り、認められない。第一審の判決内容が悪いと見なす敗訴側の当事者にとっては大きな負担である。

 

7. 離婚訴訟手続の改正

2019年3月の民事訴訟法の改正により、訴訟離婚手続を改正する政令が2019年12月17日に制定され、2021年7月1日より施行となった 。

2019年3月の民事訴訟法の改正前には、2004年5月26日法 の規定に従って、訴訟離婚の手続は訴訟前手続と訴訟手続の二段階に分けられ、まず原告となる配偶者が「和解の試み」の法廷 (audience de conciliation) に他方配偶者を召喚させ、この「和解の試み」の法廷で協議離婚が不可能なことを判事が確認した後で、原告となる配偶者は被告となる他方配偶者に対して原告の訴状を通達して訴訟手続が始まるとされていたが、この二段階が廃止され、原告となる配偶者は直接被告となる他方配偶者に対して原告の訴状を通達できるようになった(2019年12月17日の政令第5条により改正された民事訴訟法第1107条)。「和解の試み」の法廷は「オリエンテーションと暫定措置」法廷(audience d’orientation et sur mesures provisoires)に代わられ、2021年7月1日以降、離婚の訴訟を起こす当事者の弁護士は、法廷期日が記載された訴状を被告配偶者に執行官を通じて通達する。