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契約中の責任制限条項が有効となるための条件

(破棄院商事部、2010年6月29日判決, n° 09-11841 Sté Faurecia c/ Sté Oracle)

契約の一方の当事者が契約義務に違反した場合、その当事者は他方の当事者に対して損害賠償を支払う義務を負うが(民法第1147条)、契約に損害賠償義務を制限する条項が規定されている場合がある。
契約不履行の場合に契約中の責任制限条項が有効となるための条件は、特に1990年代以降、クロノポスト事件を通じて判例で確立されてきた。

クロノポストは、1985年に始まった投函の翌日午前中に郵便物が宛先に届くことを謳ったスピード郵便サービスであるが、この時間内の郵便配達義務を果たさない場合がよくあり、損害を受けた顧客から数多くの訴訟を起こされてきた。

90年代以降のクロノポスト事件に関する破棄院判例の変遷は以下の通りである。

1996年の事件では、競売に参加するためクロノポストで入札書を2回にわたって送付したBanchereau社が、2回とも郵便物の送付が午前中に宛先に着かなかったため、競売に参加できず、クロノポスト 社に対して損害賠償を請求したところ、クロノポスト社が契約中にある責任制限条項を適用して郵便代の返金しか行わなかったため、同社を相手取って訴訟を起こしたものである。1996年10月22日の判決で破棄院商事部は、翌日の午前中までに郵便物を届けるというクロノポスト社の義務は「契約の本質的な義務」であるとした上で、クロノポスト社が定められた時間内に配達を行わなかった場合にその責任を郵便代の賠償のみに制限する責任制限条項を適用することは、契約の本質的な義務に矛盾するため認められないと判示した。

しかしその後2000年代に入り数々の類似した事件で、クロノポスト社は、その契約責任を郵便代の返還に制限する責任制限条項は1980年代に政令で定められた郵便会社の契約モデルに準じたもので、通常の契約中の責任制限条項よりも強い効果をもつと主張しはじめた。これを受けて、2005年以降破棄院は立場を変え、政令で定められた契約モデルに準じた当該責任制限条項が無効となるためには、単なる契約の本質的な義務の違反ではなく、重過失、または詐欺的過失があることが必要である、そして契約の本質的な義務違反自体は重過失を構成しないという原則を打ち出した(破棄院合同部2005年4月22日判決、破棄院商事部2006年2月21日判決)。

従って現在、クロノポストまたは類似のスピード郵便サービスを使って重要な郵便物を送り、それが定められた時間に宛先に着かず大きな損害を蒙った場合でも、クロノポストまたはその他のスピード郵便会社が意図的に顧客を欺く意図があった、又は郵便物が時間内に届かなかったこと以外の重大な過失を犯したことを裁判で証明しない限り、損害賠償は郵便代を超えて請求することができない。

クロノポスト事件で問題になった責任制限条項は政令に基づくものであったが、政令に基づかない、通常の契約内の責任制限条項が契約の本質的な義務の違反の場合に無効となるか否かという問題については、Faurecia事件に関する破棄院商事部2010年6月29日判決で新たにその条件が明確にされた。

本件では、アメリカのソフトウェア会社であるOracle社が顧客たるFaurecia社と1997年、翌年5月から販売開始予定だったソフトウェアを販売する契約を行い、当該ソフトウェアが販売されるまでの期間暫定システムをFaurecia社のコンピューターに設置したところ、暫定システムに大きな瑕疵があり、また2000年になってもOracle社が契約対象のソフトウェアを引き渡さなかったため、Faurecia社がOracle社を相手取って契約義務違反による契約解除と損害賠償を請求したものである。被告のOracle社は契約中の責任制限条項を引用し、損害賠償の額が制限されると主張した。

2005年ベルサイユ控訴院は、クロノポスト判例を適用し、重過失がない以上責任制限条項は適用されると判決を下したが、この判決は2007年2月13日の破棄院判決で、Oracle社によるソフトウェアの引渡不履行は契約の本質的な義務の違反であり、責任制限条項は適用されないということを理由に破棄差戻しされた。しかしこの破棄院の1996年クロノポスト判決の立場に戻る判決はその後、契約中の責任制限条項の存在自体を無意味にするとして実務家により強く批判されたため、差戻し先のパリ控訴院は2008年、2005年のベルサイユ控訴院判決と同じ立場を取り、重過失がない以上責任制限条項は適用されるとして、Oracle社の損害賠償額を責任制限条項を適用した額、203 312ユーロに制限した。

Faurecia社はこの判決に対し上告を行ったが、 破棄院は2010年6月29日の判決で、「責任制限条項の無効はそれが契約の本質的な義務と矛盾し、契約の本質的な義務をはじめから無意味にするものである場合に限られる」とした上で、本件においては、Oracle社とFaurecia社間の契約に定められている責任制限条項は当事者のリスク分担率に応じた損害賠償額の上限を定めており、契約の本質的な義務自体をはじめから無意味にするものとはいえないとして、上告を却下する判決を下した。また重過失と契約の本質的な義務違反の関係の問題については、従来のクロノポスト判例を適用し、契約の本質的な義務違反のみでは重過失を構成しないという原則を確認した。

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